第98話 イルの説教
「ま、丸一日って、それじゃあもうパレード前日なの!?」
「うむ。そうじゃ。昨日もイルがパレードの打ち合わせじゃと言って部屋を訪ねてきたが、きっちり追い返しておいたぞ」
「えぇ?! そんなの絶対イルさん怒ってるよ!」
「どのみち『煉獄道』におって相手はできんかったのだ。問題なかろう」
「問題大ありだよ! あぁもう、早く謝りに行かないと……一日経ってたら今さらだけど、それでも何もしないよりましだよね」
イルの怒っている姿を想像してハルトはブルっと背筋を震わせる。ちょうどその時だった。ハルトの部屋のドアがノックされる。
「は、はい!」
ビクッとして慌てて返事をするハルト。扉を開けて部屋の中に入って来たのはハルトの付き人であるパールだった。
「あ、ハルト君。起きたんですね。昨日リオンさんから部屋には入らないようにって言われて。何かあったんですか?」
「ま、まぁちょっとだけ……で、でももう大丈夫です。それでパールさんは何か用ですか?」
「あ、そうでした。イルさんがハルト君を連れてくるようにって。少しだけ怒ってたので、気を付けた方がいいかもしれないです」
若干ハルトから目を逸らしつつ告げるパール。それだけでわかる。きっとイルは怒髪天を衝く勢いで怒っているだろうということを。しかししょうがない。それはハルトの望んで起こした行動の結果なのだから。リオンのせいにはできない。
ひたすらに謝ろうと決めてハルトはパールの後について行く。ちなみに、パールが部屋に入って来た段階でロウは【カサルティリオ】の中へと戻ったようで、部屋の中から消えていた。
ハルトが連れて来られたのは会議室のような場所で、その部屋の中ではイルがいて、ハルトの姿を見るなり目を吊り上げた。
「ようハルト。こんな時間まで眠りこけてるなんてずいぶんと良いご身分だなぁおい」
「え、えっと……その……ごめんなさい」
「あぁそうだよな。お前はまず謝ると思ったよ。けどな。謝って済むような問題じゃねーんだよ! 前日だぞ前日! 何考えてんだ!」
「ひぃ……」
「おいイルよ。そうカリカリするな。禿げるぞ」
「禿げるか! っていうか誰のせいで怒ってると思ってんだよ」
「誰のせいなのじゃ?」
「お・ま・え・らのせいだよ!」
「なぜ怒るのじゃ。妾達は明日のパレードのために必要なことをしておっただけじゃというのに。魔族がおることは伝えたじゃろう」
「あぁ。それはオレも聞いてるよ。でもな、何するかぐらいは説明しとけってんだ。じゃないとこっちにも予定ってもんがあるんだよ!」
「そ、そうだよね。ごめんねイルさん。次からはこういうことがないようにするよ」
「パレードに次なんてないがな。まぁいい。もう過ぎたことグチグチ言ってもしょうがないからな」
「もうずいぶんグチグチ言ったではないか」
「あぁ? なんか言ったか?」
「な、なんでもないよイルさん。リオン、ちょっと静かにしてて」
「むぅ、わかったのじゃ」
「えーと、それでイルさんは何か話があるの?」
「当たり前だろ。じゃないとわざわざ呼ばねぇっての。まぁパレードの当日は結局オレがどうにかするしかねぇ。今さら覚えるのも無理だろうしな。それでも流れだけは覚えてもらうからな」
「う、うん。わかったよ」
「それと、あともう一つはお前の家族のことだ」
「父さんと母さん?」
「あぁ。リリアが招待してるんだろ。三時間後にゲートを開くから、連れてこい。本当ならリリアに任せるべきだったんだが……あいつどっかに行きやがったからな。あぁもう姉弟揃って迷惑しかかけねぇ。《勇者》ってのはみんなこんなのかよ」
「えーと……ホントごめんね?」
「そう思うならオレの心労を増やすような真似はしないでくれ。あと、何かするならオレに話を通すことだ。いいな」
「うん。そうだね。今度からはそうするよ」
「よし。それだけわかりゃもういいよ。どうせ言ったってお前がまたなんかやらかすことなんてわかりきってるからな」
「あはは……気をつけます」
案の定というべきかイルからしっかり怒られたハルトは今度からは気をつけようと心に誓うが、それを守れるかどうかはまた別の話だ。ハルトにひと通りの説教をし終えたイルは気が抜けたように「ふぁ」と小さく欠伸する。
「……何見てんだよ」
「えーと、眠いの?」
「眠いから欠伸してんだろ。最近寝不足なんだよ覚えないといけないことが山のようにあるからな。それに加えてパレードまでとか。ふざけんじゃねぇって話だ」
「ごめんねイルさん」
「なんでお前が謝んだよ」
「だって、パレードがあるのはボクが《勇者》に選ばれたからだし……それなのにパレードボクの分まで覚えてくれてるんでしょ? それが申し訳なくて」
「はっ、男が細かいこと気にしてんじゃねーよ。それにオレはまたそのうち十分こき使うから覚悟しとけ。とりあえずオレはこの後まだやることがあるからもう行くぞ。いいか。三時間後だからな。門の前に行くの忘れるなよ。そんで帰ってきたら明日の流れの確認だ」
「うん、わかったよ」
イルが去っていくのを見送った後、リオンが口を開く。
「主様の母上と父上が来るのか?」
「うん。そのはずだよ。本当なら姉さんが迎えにいくはずだったんだけど、今はいないしボクが迎えに行くよ。それくらいはできるしね」
「うむ。楽しみじゃのう。今から挨拶の文言を考えておかねば」
そしてハルト達は両親を迎えに行く準備を進めるのだった。
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