第96話 怠惰の『煉獄道』 8

「あ、主様?」

「うん。だってそうでしょ~。私が主様のことを主様って認めたんだから」

「えっと……それじゃあ逆に今までってどう思ってたの?」

「うーん? リオンの主様、かな。っていうかリオンから【カサルティリオ】のことちゃんと聞いてないの?」

「ご、ごめん……聞いてない」

「ダメだなぁリオンも。そういう所適当なんだから」

「えっと、ロウは知ってるの?」

「もちろん。リオンはね【カサルティリオ】そのものなんだよ」

「? どういうこと?」

「うーん、そうだな。わかりやすく言うなら、リーダーかな? リオンは私達のリーダーなの」

「リーダー?」

「そうそう。リオンを筆頭にその下に私達がいる。って言ってもさ、上司と部下みたいな感じじゃないけど。リオンが認めた主に、私達は手を貸す。そういう契約なんだ」

「契約って……」

「だからさ、前はリオンが力を貸せって言ったから主様に力を貸した。でも今度からは違う。私が主様のことを主様って認めたから。今までよりもずっと大きな力を渡すことができる」

「大きな力……」

「まぁ、まだ私だけだけどね」

「どういうこと?」

「だってこれは『怠惰』の『煉獄道』だもの。他にも後六つの『煉獄道』があって、それぞれに私のような統べる存在がいる」

「それってつまり……」

「うん。【カサルティリオ】を全力で使いたいなら、あと六回は『煉獄道』をクリアしないといけないよ」

「こんなことを……あと六回?」

「まぁ私のはちょっと特殊だけどね。それに『憤怒』以外は行方不明だし。ふぁあ~、いっぱい喋ったら疲れちゃった。もう帰って寝るね」

「え、あ、ちょっと」

「むーりー、もう喋らない~。クーちゃーん」

「クマッ」

「うわっ」


 ロウが叫ぶと、どこからともなく熊が現れる。それはハルトをこの世界に導いてきたのと同じ熊だった。


「こ、この熊さっきの……」

「うん。案内役のクーちゃん。5歳メス」

「案内役……ってメス!?」

「うん。どこからどう見てもメスでしょ」

「クマ」


 どこからどう見てもの熊にしか見えません、という言葉をハルトはグッと飲み込んだ。ロウの言葉に同意するように熊も頷く。


「それじゃあクーちゃん、主様の案内よろしくね。外でリオンも待ってるだろうから」

「クマ」

「うん、流石クーちゃん。クーちゃんに任せれば万事解決だね」

「言葉わかるんだ……」

「私とクーちゃんは以心伝心なのさ~。それじゃあよいしょっと。それじゃあまた後でね主様」

「え、あ、うん。ってまた後でってどういう——」


 ハルトの疑問に答えるよりも先にロウは熊の背中に乗って去って行ってしまう。その場に取り残されたハルトが呆然とすることしばし、ロウを運んだのか熊がハルトの元へと戻って来る。


「えっと……君についていけばいいのかな?」

「クマ」


 熊は小さく頷くと、この世界にやってきた時と同様ハルトの前を先導して歩き出す。ついて行くしかないハルト。熊が軽く手を鳴らすと、忽然と扉が現れる。その扉をゆっくりと開くと、来た時と同じ暗い道が広がっていた。


「ねぇ、他の六つにはどんな人がいるのかな?」

「……クマ、クマクマ」

「あぁごめん。何言ってるかわからないや」

「クマァ……」


 何を言っているか全く理解はできなかったが、それでも最後の呟きが残念そうだったことだけは理解できた。

 なぜロウは熊の言っていることを理解できるのかと考えていると、再び扉の前にたどり着く。そのドアは先ほどまでと全く違う雰囲気だった。熊はその扉の前に立ち、ハルトに出るように促す。


「ここから出ればいいの?」

「クマ」

「うん。わかった。ありがとね。えっと、クーちゃん、だっけ?」

「……クマ」


 心なしか頬を赤く染めて、クマはそっぽを向く。

 ハルトは熊に短く礼を告げ、扉を開く。そして光がハルトを包んだ。






□■□■□■□■□■□■□■□■□


「う……ん……」


 少しだけ騒々しさを感じてハルトはゆっくり目を開ける。うっすらと瞼を開くと、リオンが何かを叫んでいるのが見えた。


「なんでお主が主様の隣に寝ておるんじゃ!」

「う~ん、うるさいよ~」

「お主がそこからどけばいくらでも静かにしてやるわっ!」


 リオンが誰かに対して怒っている。そして、もう一人の声にもハルトは聞き覚えがあった。ゆっくりと目を開け、体を起こそうとするが左腕にしっかりとした重みを感じて動けない。


「おぉ、主様! 目を覚ましたか!」

「う、うん。でもこれって……」


 左腕に目を向けると、そこにはロウの姿があった。一気にハルトの目が覚める。


「え、え!? な、なんでロウがここに?!」

「あ、起きたんだ~。おはよ主様~」

「だぁから、さっさと主様から離れんかロウ!」

「別にいーじゃん、主様だって女の子に抱き着かれて嫌な気持ちはしないでしょ」

「お主のような貧相な体の女子に抱き着かれて喜ぶものがおるか!」

「これはこれで受けはいいんだよ~。っていうか、私より貧相なリオンに言われたくないんだけど」

「なんじゃと~!」


 小馬鹿にしたように笑うロウと顔を真っ赤にして怒るリオン。目覚めてそうそうそんな二人に挟まれたハルトは、小さくため息を吐くのだった。


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