第54話 vsアースドラゴン&カイザーコング 中編
アースドラゴンとカイザーコング。どちらもリリアなどとは比較にならないほどの巨体だ。アースドラゴンはその巨体の通り鈍重だが、硬く攻撃が通りにくい。対するカイザーコングはその巨体に似合わずかなりの素早さで動くことができる。
リリアが最初に狙ったのはアースドラゴンの方だった。最初から全力で行く。そう決めていたリリアは『姉力』を剣に纏わせてアースドラゴンに向けて突進する。
しかし、アースドラゴンは向かって来るリリアに視線を向けることすらしない。ギリッと歯を食いしばってリリアはアースドラゴンに渾身の一撃を叩き込む。
「『地砕流』!」
アースドラゴンの横っ面に攻撃を叩き込む。しかし、アースドラゴンはビクともしなかった。『姉力』で剣を強化しているおかげで、剣が折れるということはなかったが代わりにリリアの腕がビリビリと痺れる結果となってしまった。まるで鉄の塊を叩いたかのような感触。思わず剣を落としてしまいそうになるのをこらえながらリリアはアースドラゴンから離れる。
そして、そんなリリアの一撃が開戦の合図となったのかアースドラゴンとカイザーコングが激しくぶつかり合う。
リリアに言われて遠くに下がっていたタマナは無事だったが、近くにいたリリアはもろにその余波を喰らってしまう。
その巨体で木をなぎ倒しながらカイザーコングへと突進するアースドラゴン。対するカイザーコングは不敵な笑みを浮かべてその突進を受け止める。カイザーコングは大きいとは言っても、アースドラゴンよりは小さい。しかしそれでも怯むことなく迎え撃つその姿はまさしくA級の魔物だ。地形が変わってしまうのではないかと思うほどの衝撃と揺れ。二体の攻撃の余波で折れて飛んでくる木を避けるだけでリリアは精一杯だった。
「くっ、この……」
なんとか隙を見て攻撃を仕掛けようとするリリアだが、二体の猛攻に阻まれて近づくことすらできない。
(これがA級の魔物……B級とは比べ物にならないっ)
以前に戦ったセルジュの使役していたミノタウロス。あれならばリリアも一対一で真っ向から戦うことができた。しかし、アースドラゴンとカイザーコングには近づくことすらできない。
(これじゃあ歯牙にかけられないのも当然……今の私じゃ、あの戦いの中に入っていくことすらできない。腹が立つけど……これが現実)
はっきり言うのであれば、リリアはA級の魔物というものを若干舐めていた。どこかで『姉力』を使えば勝てると、そう思っていた。しかし現実はこれだ。『姉力』を使った一撃ですらアースドラゴンに傷一つつけることは叶わず、二体はリリアのことを依然無視したまま戦い続けている。
(こんな私がハル君を守る? ……はは、そんなの夢物語じゃない)
A級の魔物を相手にもできない自分が、果たして魔王軍を相手にしてどこまで戦えるというのか。
力が足りない自分への苛立ちと無力感がリリアの胸中を占める。そんな余計な思考が、この場においては致命となることをリリアはすっかり忘れてしまっていた。
「リリアさんっ!」
背後からタマナがリリアに呼びかけた時にはすでに遅かった。ハッとしたしたリリアが正面に目を向けると、アースドラゴンの尻尾が眼前に迫っていた。
とっさに剣で防ごうとするリリアだったが、そんなもので防げるはずもない。岩のような尻尾がリリアの剣を圧し折り、体に叩きつけられる。
肺の中の空気を全て押し出される感覚。以前にエクレアの一撃を喰らった時と似た感覚がリリアを襲う。
飛びそうになる意識を必死につなぎ止めながら、たった一撃でボロボロになった体をリリアは無理やり起こす。幸いと言うべきか、アースドラゴンもカイザーコングもリリアに意識を向けてはいない。今の一撃もリリアを狙ったものではなく、ただ偶然振った尻尾がリリアに当たったというだけの話だ。
「大丈夫ですか!」
二体の交戦地点から離れたことで、タマナが近づいてこれるようになる。駆け寄ってきたタマナは慌ててリリアに【回復魔法】をかける。
「だから言ったんです、無茶だって! こんな怪我……あぁもう! 立っちゃダメです!」
「すいませんタマナさん。でも……ここで引いたら意味がないんです」
「でもどうしようもないじゃないですか! リリアさんの攻撃は通用しなくて、たった一撃もまともに受けれなくて……これ以上は死にに行くようなものです!」
「……そうですね」
「だったら!」
「でも、この程度の死線は乗り越えないと……私は先に進めないんです」
もっと強く。もっと先へ。ハルトを守るために命を懸ける必要があるのならばそこに躊躇などあるはずがない。
「大丈夫ですよ。エクレアさんの一撃の方がずっと重かったですから」
「どうしても行くんですか?」
「はい」
「だったら、今度は私も行きます」
「え、いやそれは……」
「危ないっていうなら、それはリリアさんも一緒ですからね。一人より二人です。何もできないかもしれませんけど……ちょっとくらいなら私にもできることがありますから」
「タマナさん……」
「いいですかリリアさん。帰ったら説教ですからね!」
もういっそ振り切れたのか、杖を構えてタマナは言う。そんなタマナの優しさに思わず頬を緩めながら、リリアは頷く。
「わかりました。その説教を聞くためにも、ちゃんとこの戦いに勝利しましょう。アースドラゴンとカイザーコングに、私を……私達を軽く見たことを後悔させてやりましょう」
「はいっ!」
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