第55話 vsアースドラゴン&カイザーコング 後編

 再びアースドラゴンに向かって駆け出したリリアとタマナ。カイザーコングと激しく交戦しているアースドラゴンは近づいて来るリリア達に気付いてはいない。カイザーコングもまた同様だ。互いを潰し合うことに全力で、リリア達に力を割く余裕が無いのだ。

 そしてそれこそがリリア達が二体のA級の魔物に付け入る隙になる。


「リリアさん、どうやってアースドラゴンとカイザーコングを倒すんですか? 剣はもう折れちゃってますし」

「確かに剣はないですけど……私にはまだこれがありますから」


 そう言ってリリアは拳を握る。


「これなら余すところなく『姉力』を使えます。今度は全力の力を、あいつにぶつけます」

「あうぅ……心配です」

「ふふ、逃げるなら今の内ですよ」

「いいえ、逃げません! 逃げる時はリリアさんも一緒ですから。私も奥の手を使いますから……リリアさんは全力でやっちゃってください!」


 交戦地帯に近づくにつれて地響きや飛んでくる木片などが増えてくる。リリアは自分の中でジリジリと『姉力』を練り上げて集中し始める。


(体への強化は最低限。どのみち一撃でも喰らったら終わりだから。足と拳に力を集中させる。一点突破する。それしか勝ち筋はない。狙うのはカイザーコングとアースドラゴンが近くにいる瞬間)


 リリアはそう狙いを定めて力を練り上げ続ける。


(竜種には弱点がある。アースドラゴンもそれは同じ。逆鱗……そこだけはアースドラゴンでも確実に攻撃を通せる)


 最強種である竜種にある明確な弱点。それが逆鱗だ。そこだけはどんな竜も柔らかく、どんな攻撃も通してしまう。問題はその逆鱗の位置がわからないということだけだ。

 リリアは必死に目を凝らして逆鱗の位置を探る。


(昔お父さんから聞いた……竜種は逆鱗を守るために、無意識にその場所に魔力を集中させる。だから、魔力の流れを視れば場所を見つけれるはず)


「……【姉眼】」


 カッと目を見開くリリア。その目には先ほどまでは見えていなかった魔力の流れが見えている。アースドラゴンとカイザーコングから発せられる莫大な魔力の波に目を焼かれそうになりながら、それでも耐えてアースドラゴンを見続ける。

 【姉眼】を発動したことで一気に増えた情報量に脳の処理が追い付かなくなっていく。激しい頭痛がリリアを襲い、思わず膝をつきそうになる。しかしその前にリリアの目がおかしな魔力の流れをしている場所を見つけることに成功する。


「見つけた」


 アースドラゴンの尻尾の付け根付近。そこだけやたらと魔力が集中していた。


「あそこが逆鱗」


 しかし問題は、逆鱗のある尻尾付近は非情に危険だということだ。アースドラゴンは常に尻尾を振り回している。その威力は先ほど身をもって喰らったリリアが十二分に知っている。


「それでもやるしかない。タマナさん、一気に距離を詰めます」


 宣言するやいなやリリアは全速力で交戦地帯の中心へと向かう。カイザーコングの振る拳を避けながら、アースドラゴンへと肉薄するリリア。アースドラゴンもカイザーコングも急に乱入してきたリリアの存在に怒りの感情を向ける。邪魔をするなと、煩わしい羽虫を払うように腕や拳を振るがリリアはそれらを全て紙一重で避け続ける。

 二体の攻撃を躱しきったリリアは、アースドラゴンの背を蹴って一気に逆鱗へと近づく。リリアの狙いに気付いたのか、そこで初めてアースドラゴンがカイザーコングよりもリリアへと意識を向ける。逆鱗に近づくリリアを振り払おうとするが、背に乗られている状況ではそれも上手くいかない。

 最後の手段と言わんばかりに尻尾の先端でリリアのことを刺そうと狙うが、


「彼の者の動きを捉え、抑えつけよ——『アースバインド』!」


 その動きを遠くから見ていたタマナが、【土魔法】でアースドラゴンの尻尾を捉え、その動きを止める。


「ぐっ、い、いまですリリアさん!」


 タマナの奥の手ではあったが、相手はA級の魔物。動きを止めることができたのはごく僅かな時間だけだった。しかし、そのだけの時間があればリリアには十分だった。


「当たれぇええっ! ——『姉破槌』!!」


 一瞬の隙をついて、リリアは全力の一撃をアースドラゴンの逆鱗へと叩き込む。魔力で覆われた逆鱗。そんな魔力の壁を突き破ってリリアの拳が逆鱗へと叩き込まれる。


「ッッ!! グルガァアアアアアアアァアアアアアアッッ!!」


 瞬間、天を衝くような叫び声を上げるアースドラゴン。その叫び声は苦悶で満ちていた。のたうち回り、縦横無尽に動き回るアースドラゴンから慌てて離れるリリア。カイザーコングもさっと後退し、ギロリとリリア達のことを睨みつける。その視線に含まれていたのは明らかな怒りの感情。勝負の邪魔をされたことに対する怒りだった。


「っ、浅かった!」


 アースドラゴンに一泡吹かせることに成功したリリアであったが、結果に満足してはいなかった。本当ならば一撃で仕留めるつもりだった。しかし今のアースドラゴンは少し動けなくなっただけで、まだ生きている。

 魔力による障壁は思った以上に硬かったということと、迫りくる尻尾を避けるために動いたせいで狙いがぶれてしまったことが原因だ。


「でもこれで、アースドラゴンはもう動けない。後は——っ!」

「グオォオオオオオッ!」


 頭上に殺気を感じたリリアが慌ててその場を飛び退く。すると、次の瞬間にリリアが立っていた場所にカイザーコングの拳が降ってきた。当たれば即死の一撃だ。


「ここからが正念場……ということね」


 額に汗を流しながらリリアは拳を構える。カイザーコングは地面に埋まった拳を引き抜きながら、リリアのことを睨みつける。その目はリリアのことを『食料』としてではなく、明確な『敵』として見ていた。自分に届きうる牙を持った『敵』だと。

 そしてさらに、事態は最悪の方向へと転がりだす。


「リリアさんっ! アースドラゴンが!」

「グルルルル……ガァアアアアアアアッ!!」

「そんな、まさかもう!?」


 しばらくは動けない。そう思っていたアースドラゴンが起き上がる。その目には怒り、殺意、さまざまな激情が渦巻き。それらは全てリリアとタマナへと向けられていた。

 二体の魔物の殺意が、一直線にリリア達へと向けられる。逃げることなどできない。できるはずがない。紛れもない死地。最悪の状況。

 生きて帰る方法はただ一つ。この二体を相手にして、勝利すること。


「やることは何も変わってない。できる……やってみせる!」


 リリアが走り出すと同時、アースドラゴンとカイザーコングがリリアへと突進してくるのだった。


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