第53話 vsアースドラゴン&カイザーコング 前編
リリアのしたい修行は単純だ。ひたすらに強い魔物と戦い、自分を高めていく。それだけだ。自分自身を限界まで追いつめること、それが今は必要だとリリアは感じていた。
「リリアさ~ん。用意できましたよぉ」
「ありがとうございます」
「ホントに大丈夫なんですか?」
「どうでしょうね」
「えぇ!?」
リリアがタマナに頼んだのは魔物避け、ではなく魔物を集めるための臭い袋の設置だ。魔物の好物の臭いを周囲に充満させおびき寄せるのだ。当たり前だが危険な行為である。わざわざ自分の命を危険に晒すというのだから。
B級の魔物であればまだしも、A級の魔物ともなればリリアでも無事に済むかわからない。一体でも戦うとなればまさしく命がけだ。
そう聞かされたタマナは一気に顔を青ざめさせる。リリアで勝てないならば、タマナに勝てるはずもないからだ。すなわち、リリアの負けはタマナの死を意味するのだ。
「まぁ、気楽にいきましょう」
「無理ですよぉ! に、逃げましょうリリアさん。今ならまだ大丈夫ですから!」
「逃げるわけないですよ。それじゃ修行になりませんから。それに……もう遅いみたいですよ」
「え?」
キッと険しい目で森の奥を睨みつけるリリア。すると、ズシンズシンという地鳴りと共に木のなぎ倒されるような音が響き始める。
近づいて来る巨大な気配に、リリアは戦闘態勢に入る。その直後、ついにその姿を現す。
「グルルルルゥ……」
「アース……ドラゴン……」
隣でタマナが絶望と共に呟く。
アースドラゴン。文句無しのA級の魔物である。最強種と呼ばれる竜種。多くの種類がいる竜種の中でも頑強さでは群を抜く。並大抵の攻撃では傷一つつけることは叶わないだろう。その体躯は十メートルを超える。ギョロリとした巨大な目玉がリリアとタマナのことを射貫く。
睨まれただけ、ただそれだけでリリアは冷や汗が流れるのを感じていた。隣にいるタマナなどは腰を抜かしてしまっている。剣を構え、どう動くかと思案していると、不意にアースドラゴンがリリア達から視線を逸らし、リリア達の背後へと視線を送る。
「?」
一瞬意味が分からなかったリリアだが、すぐに理解した。背後に現れたもう一つの巨大な気配を感じたからだ。アースドラゴンとは違うもう一つの巨大な力の存在。
「カイザーコング……」
おそるおそる背後を振り返ったリリアの目に映ったのはカイザーコングというA級の魔物だった。アースドラゴンと並ぶほどに強力な魔物だ。獰猛で好戦的な性格で、例えS級の魔物であろうとも怯むことなく戦いを挑むのだ。その力は容易に大地を割る。もちろん人間が一撃でも当たればひとたまりもない。
アースドラゴンはそんなカイザーコングの気配に気付いてリリアから視線を外したのだ。よりにもよってこの森の主とも言えるような魔物が二体揃ってしまった。絶望的な状況である。
「っ……」
「あわわわわわわ……」
前と後ろ、両方挟まれてしまっては逃げ場などない。タマナはいよいよ気を飛ばしそうになる。しかしリリアは気付いた。気付いてしまった。
「グルルルルゥ」
「ガァアアアアアアッ!!」
アースドラゴンとカイザーコングはリリア達のことなど全く見ていなかった。見ているのは目の前にいる『敵』だけ。自らの『食料』を奪いに来た『敵』だけだ。
リリアがそれに気づいてから少し遅れてタマナも同じことに気付いた。そしてこれはチャンスだと考えた。アースドラゴンとカイザーコング。二体が睨み合っている今ならば逃げるチャンスがあると。
「リ、リリリリリアさん。逃げ、逃げましょう。今なら逃げれますからぁ」
「…………」
「リ、リリアさん?」
しかしタマナが呼びかけてもリリアは俯いたまま反応しない。タマナは自分と同じように恐怖で固まっているのかと思ったが、その表情を見てそれが間違いであることに気付く。
俯いたリリアの表情に現れていた感情、それは——怒りだった。
「……ふざけるな」
A級の魔物、アースドラゴンとカイザーコング。この二体にとってすれば、リリアとタマナは取るに足らない存在。ただの『食料』でしかない。その事実が、リリアの感情に火をつけた。
アースドラゴンとカイザーコングから見て、リリアはそれほど矮小な存在なのだと思い知らされて。そのことが激しい苛立ちを生んだ。二体のA級に囲まれるという絶望的状況。しかしそんなことは今のリリアには全く問題ではなかった。
「私は……お前達の『食料』なんかじゃない。そのことを……わからせてやる」
「リリアさ——」
「タマナさんは下がっててください」
「下がっててって……リリアさんはどうするんですか!」
「この二体を……倒します」
「無茶です! A級の魔物ですよ! 今すぐ逃げるのが正しい選択です!」
「ここで逃げたら……私は一生この先にいけないんです。弱い私を、弱いと思われた私を認めるわけにはいかないんです!」
怒りの気炎がリリアの体から完全に緊張を拭い去る。タマナの説得を押しのけたリリアは睨み合い、まさに戦いを始めようとしていた二体へと勝負を仕掛けるのだった。
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