第48話 リリアvsハルト 前編
「ふっ、はぁっ!」
「もっとしっかり踏み込んで。剣に全然力が乗ってないよ」
ミレイジュと訓練したその後、リリアは今度はハルトと共に訓練をしていた。普通の訓練ではない。今までしたことのない実戦形式の、本気の戦い。ミレイジュとした模擬戦と同じものだ。そして今回ハルトに持たせているのは木剣ではない。本物の剣だ。触れれば軽い怪我程度ではすまない。
それがわかっているハルトはどうしても剣を振る手が鈍ってしまう。万が一にでもリリアを怪我させてしまったら……そう思うと怖くて仕方ないのだ。そんなハルトの胸中はリリアも十分に理解している。
「私に怪我をさせるのが怖い?」
「っ! そ、それは……」
「もしそう思ってるならはっきり言うよ……舐めるな!」
「がはっ!」
一喝と共にリリアはハルトのことを吹き飛ばす。ゴロゴロと地面を転がるハルト。その一撃には、確かにリリアの怒りの感情が乗っていた。
今までリリアから向けられたことのない感情を向けられたハルトは狼狽してしまう。
「姉さん?」
「ハル君、あなたはいつ私の心配ができるほど強くなったの?」
「で、でも……これは本物の剣だし……今まで人に剣を向けたことなんてないから……」
「やったことがない、だからできない。いつまでもそのままじゃいられないでしょ。そのための訓練。訓練でできないことが、実戦でできると思わないで」
いつも以上に厳しいリリアの言葉にハルトは思わずビクッとしてしまう。
その様子をジッと隣で見ていたリオンが嘆息して口を挟む。
「なんじゃ、今日はいつにも増して言葉が厳しいのうリリア」
「別に間違ったことは言ってないでしょ」
「そうじゃが……今日はなんというか……お主自身にも鬼気迫るモノを感じるぞ」
「……そうだね。そうかもしれない。どうするハル君。優しく教えて欲しい? それともこのままでいく? 私はどっちでもいいよ」
リリアは何もハルトのことが嫌いになったから厳しくしているわけではない。むしろその逆だ。訓練の時はいつも厳しくすることを心掛けているリリアだが、今日は輪をかけて厳しくしていた。
今日ばかりは心の迷いもない。
「……ううん。厳しくていいよ。姉さんのいつ通りだもの。ボクはもっと強くなりたい……だから、どんな訓練にだって耐えて見せる!」
立ち上がったハルトは剣を構えてリリアのことを見据える。その構えに先ほどまでのような恐れはない。それを見たリリアはフッと表情を緩める。
「それでこそハル君だよ。いいよ、おいで。今日は全力で戦おう」
「はぁあああああっ!」
ぶつかり合う剣と木剣。ハルトの魔力によって強化された剣であれば、容易く切れるはずの木剣。しかし切れることはない。それが指し示すことはただ一つ、ハルトの魔力強化がリリアに劣っているということだ。
「せっかく本物の剣を持ってても、そんな強化の仕方じゃ何も切れないよ」
軽く言うリリアだが、ハルトにとっては今出している力が全力だった。これ以上どうやって強化すればいいかなどわかるはずもない。
「考えるのハル君。考えることを止めちゃダメ。今のハル君に足りないものは何?」
「ボクに足りないもの……」
ハルト自身に言わせれば、何もかも、だ。リリアのような強い意思も覚悟も、そして強さも。全てにおいてハルトはリリアに劣っている。だからこそ少しでも追い付くためにこうしてリリアと訓練しているのだ。
しかし、リリアがハルトに求めているのはそういう答えではない。
(ボクに足りないものは多い……でも、それはすぐに手に入れられる力じゃない。だから……ボクがするべきことは……)
ちらりとリオンに視線を送るハルト。そしてハルトは意を決したようにリオンに向かって叫ぶ。
「リオン! ボクに力を貸して!」
「む? よいのか主様よ」
急に声を掛けられたことに驚くリオン。普段であればハルトは訓練中にリオンにことを呼ばない。リオンに頼っていては成長できないと訓練中にリオンに介入することを断っていたからだ。
「ボクは……ボクは姉さんに勝ちたい。そのためには、ボク一人の力じゃ足りないから。だから、力を貸してリオン!」
「クク、アハハハ! よかろう主様よ! 妾の力を存分に使うがよいのじゃ!」
すぐさま人から剣へと姿を変え、ハルトの元へと飛ぶリオン。飛んできたリオンをキャッチした瞬間に、それまでとは比べ物にならないほどに力が膨れ上がる。
それを見たリリアはニヤリと笑う。この状態のハルトを間近に見るのは初めてだった。
「そう、それでいい。今のハル君に力は足りない。なら借りるのが一番早い手段。もちろん、いつもそれに頼ってちゃダメだけど。頼れる力があるというのも、また一つの力。さぁ見せて。ハル君とリオンの力を!」
そしてハルトとリリアは再びぶつかり合うのだった。
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