第43話 再会の約束

 ガルと偶然の再会を果たしたハルトは、ガルに案内されてミスラから頼まれた買い物をリストの物をほとんど買うことができていた。


「このお店は……あっちの方にあったはずだよ」

「そうなんだ……ガル君ホントに詳しいね。ボク王都に来たばっかりだからお店の場所とか、商品のこととか全然わからなくて」

「うん、わかるよその気持ち。っていっても、僕も王都に来たのは最近なんだけどね」

「え、そうなの?」

「もともとは遠くに住んでたから。でもちょっと用事があって兄さんと一緒に王都に来たんだ。それで、色々と事前に調べたんだ」

「へぇ、すごいね。ボクなんか王都に行くって決まった後も全然なにも調べたりしなくて……そのせいでこんなことになっちゃったんだけど」

「あはは、僕は必要に迫られてやっただけだよ。そうしないと兄さんが怒っちゃうから」

「お兄さんが? どうして?」

「それは……ま、まぁ僕の話はいいんだよ。それよりもハルト君こそどうしてこんなにいっぱい……しかも女の人の買うような物ばっかり買ってるの?」

「あ、えっとそれは……」

「主様の姉君に頼まれたのじゃ」

「お姉さんが? ハルト君お姉さんがいるんだ」

「え、あぁうん」

「主様の姉君がそれはそれは横暴な奴での。自分で買いに行くのが面倒じゃからと自分の買い物を主様に押し付けたのじゃ」


 リリアがこの場にいないことをいいことに、横暴な姉に仕立て上げようとするリオン。ハルトは急なことを言い出したリオンに驚きを隠せない。


「ちょっと、リオン」

「こうしておけば言い訳が楽じゃろう。主様も話を合わせるのじゃ」

「でも……」

「でもではない。変に勘繰られるよりはよいじゃろう」

「二人ともどうかしたの?」

「え、あ……」

「なんでもないのじゃ。主様の姉君は地獄耳じゃからの。この会話も聞かれているのではないかと主様が懸念しておっただけじゃ。いかに地獄耳といえど、聞こえるわけもないのじゃがな」

「はは、そうだね。どこにいるかは知らないけど、流石にこれだけ人がいるんじゃあどんな地獄耳でも話は聞こえないだろうね。でも、そんなに怖いお姉さんなの?」

「えっと……ま、まぁ……ある意味でね。優しい所も多いんだけど」


 リオンに肘でつつかれたハルトはしぶしぶリオンの話に乗る。本当は嘘でもリリアのことを怖い姉だとは言いたくないのだが、ここで変に反論して話がこじれても良くないと思ったのだ。


「そっか。ハルト君も大変なんだね」

「ガル君のお兄さんはどんな人なの?」

「僕の兄さんは……怖い人、かな。僕が悪いんだけどね。兄さんと違って弱虫で、優柔不断で……いっつも迷惑ばっかりかけちゃってるから」

「うむ、確かにお主は見るからに気が弱そうじゃのう」

「リオン!」

「はは、いいよハルト君。気にしないで。本当のことだしね。変に取り繕われるよりよっぽどいいよ」

「そういうわけにはいかないよ。親切にしてくれたガル君に言っていい言葉じゃないんだから。ほら、リオンもちゃんと謝って」

「む……わ、悪かったのじゃ」

「ホントに気にしてないんだけどね」

「ガル君は優しい人だよ。一度会っただけのボク達のことをこんなに助けてくれたんだから」

「優しい……ううん、僕は優しくなんかない。だって、だって僕は……」

「ガル君?」

「……あ、ごめん。気にしないで」


 ガルの様子が少しだけ変化したことに違和感を覚えたハルトだったが、それも一瞬のことで、ガルはすぐに元の様子に戻る。そのことが少しだけ気になったハルトだったが、深く追求することはできなかった。


「あ、そうだ。あそこがたぶん最後のお店だよ。リストに書いてあったものはそれで全部揃うと思う」


 色々な話をしながら歩いている内に、ハルト達は最後の店にたどり着く。


「これでもう道案内はおしまいかな。後は二人だけでも大丈夫だよね」

「うん。そうだね。ありがとう」

「うむ。世話になったのじゃ」

「これくらいならね。全然大したことないよ」

「でも本当に助かったよ。そういえば、ガル君はなんの用事もなかったの? もしかして何かしてる途中だった?」

「あー、ううん。別に大した用事じゃないんだよ。ちょっと探し物をしてただけで。でも、どこで落としたかもいつ落としたかもわからなくて。もう諦めて帰ろうとしてた所でハルト君達に会ったんだよ」

「落とし物……あ、そうだ!」


 そこでハルトはガルの落とし物を拾っていたことを思い出す。もしかしたらガルと再会することがあるかもしれないと思って一応持ってはいたのだ。


「ガル君の落とし物ってこれだったりしない?」

「え? あ、そう! それだよ! どこで拾ったの!」


 ハルトがポケットからガルの落とした物を取り出すと、ガルが目の色を変えて飛びついて来る。


「お昼に会った時に落としてたんだよ。ボク達が気付いて声を掛けようとした時にはもういなくなってて。もしかしたらまた会うかもしれないって思って拾って持っておいたんだ」

「そっか……そうだったんだ。ありがとう。ホントにありがとう!」


 ハルトから受け取った腕輪を大事そうに抱えるガル。その様子を見るだけで、どれだけ大事なものであったかがわかる。


「さっき会った時にすぐ思い出してたらよかったんだけど。ごめんね」

「ううん。こうして僕のもとに戻ってきただけで十分だよ。悪い人に拾われてたらそれこそ二度と戻ってこなかっただろうしね。拾ってくれたのがハルト君達で良かったよ」

「大事な物なの?」

「……うん。今はもういない父さんと母さんが僕にくれた……最後の形見なんだ。だから、なんとしても見つけたくて」

「あ、ごめん。ボク変なこと聞いちゃったみたいで」

「気にしないでよ。話したのは僕だし。なんでかわからないけど、君達には知っておいて欲しかったからさ」

「しかしそれほど大事なものなら次はもう落とさぬように気を付けるのじゃぞ。妾達がまた拾うとは限らぬのじゃからな」

「そうだね。もう絶対無くさないように気を付けるよ。それじゃあ、そろそろ僕、そろそろ行かないといけないから。本当なら拾ってくれたお礼がしたいんだけど……」

「お礼なんていいよ。ボク達も助けられたわけだし……お互い様ってやつなのかな?」

「そうなる……のかな? 僕の受けた恩の方が大きい気がするけど」

「こういうのは大きい小さいじゃないよ。それよりも……また会えるかな?」

「え?」

「ボク、王都に同い年くらいの同性の友達がいなくて……だから、またガル君に会いたいなって思って」

「…………」

「ガル君?」

「あ、いや……そう……だね。僕、今兄さんの手伝いをしてて……それが忙しくなってくるから、いつになるかわからないけど……それでいいなら」

「うん、もちろん! それじゃあ約束だね」

「……それじゃあ、またねハルト君、リオンちゃん」

「またね」

「うむ、息災でな」


 何か言いたげだったガルだが、新しい友達ができたと浮かれるハルトはそれに気づかず、再会の約束をしてハルト達は別れるのだった。

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