第42話 夕暮れの再会
夕方近くなり、ハルトはリオンと一緒に再び街の方へと出てきていた。その理由はミスラの生活必需品を買うためだ。リリアも一緒に行こうとしたのだが見た目以上にエクレアから受けていたダメージは大きかったらしく、無茶をしてついてこようとするリリアをハルトが止めたのだ。買ってきて欲しい物自体はミスラからリストとして手渡されており、だからこそハルトもリリアについてきてもらわなくても大丈夫だと高を括っていた。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
「どうしようリオン、書かれてる商品名の半分もボクには理解できないんだけど……」
「そう言われてものぅ。妾とて最近の流行は知らぬのじゃ。主様の知らぬことは妾もわからぬ」
「クランクランの化粧水にバジリスタの化粧水……その他もろもろ。こんなのどこに売ってるの?」
「うーむ、一度神殿に戻るというのも手じゃぞ。聞けばタマナなりパールなりが答えてくれよう」
「そうなんだけど、なんでこんなのもいるんだって聞かれたらなんて言えばいいのかわからなくてさ」
「リリアに言われたとでも言えばよいじゃろう」
「それこそダメだよ。姉さんの生活必需品はタマナさんが全部用意してるから。姉さんも必要になったものはタマナさんに直接お願いしてるみたいだし。今さらボクに頼んだーなんて言ったら変に疑われるかもしれないし」
「ややこしいのう」
一人でも大丈夫だと宣言して出てきてしまった手前、神殿に戻ってリリアに聞くということもできない。そんなことをすればリリアは今度こそ無理やりにでもついてこようとするだろう。
タマナとパールに事情を説明できれば早いのだろうが、アウラから二人にもまだ話さないようにと釘を刺されているためそれもできない。そして、事情を話さずに理由を説明できるほどハルトは器用ではなかった。
「お昼みたいにフブキに会えたらいいんだけど、それも無理そうだしね」
ハルトの出てきた時間帯が時間帯のためか、仕事帰りの人、夜ご飯の買い物をしている人で王都は昼と同じくらい、もしくはそれ以上の賑わいを見せていた。
「もしフブキが出てきてても、これじゃあ見つけられないよね」
「ま、無理じゃろうな。どうするのじゃ? このまま立ち往生していても仕方あるまい」
「……そうだよね。よし、誰かに聞いてみよう」
自分から見知らぬ人に声を掛けるということなどしたことが無いハルトだったが、これも経験だと勇気を出すことにした。しかし、ここでハルトは再び厳しい現実を突きつけられることになる。
「あ、あの、すいま——」
「なに、いまちょっと急いでるの邪魔よ!」
「あ、すいません!」
最初は夕方のセールに向けて急いでいる人に声を掛けてしまったために、苛立たし気に撥ね退けられた。
「すいません、聞きたいことがあるんですけど」
「ふむ、君のその質問に答えることでこのボクに何か有益なことはあるのかな?」
「ゆ、有益?」
「このボクが君のために時間を割くんだ。見返りが無ければ話にならないだろう? それで、君はボクにどんなメリットを示せるというんだ?」
「え、いや……すいません。なんでもないです」
二人目に声を掛けてみた人はハルトに対して見返りを求めた。しかしハルトに出せるものなどあるはずがなく、男の人は話にならないと呆れてハルトから離れていった。
「あのっ!」
「ん、なんだよ……って、お?」
「すいません、聞きたいことがあるんですけど」
「うんうん、なんだい? おじさんが聞いてあげようじゃないか。そうだな、ここだと人も多いからあっちの人が少ない所でゆっくりとね。君今いくつ? 可愛い顔をして——ぶげらっ!」
「主様から離れるのじゃこの変態がっ!」
三人目はなにやら危ない雰囲気を感じ取ったリオンによって彼方へと蹴り飛ばされ消えていった。
その後も複数人の人に声を掛けてみたものの、時間帯のせいなのか、それともこれが王都の人なのか。ハルトの質問に答えてくれる人はほとんどおらず、答えてくれそうな人はリオンの危ない人センサーに引っかかるような人ばかりだった。
「なんなのじゃ王都の奴らは揃いも揃って……主様が声を掛けているというのに」
「しょうがないよ。皆色んな事情があって忙しいんだろうし」
「じゃが質問に答えるくらいの時間はあるじゃろう。どいつもこいつも余裕というものが感じられんのじゃ」
「きっとボクが声をかけた人たちがたまたま忙しかっただけだよ。王都にだって優しい人はいっぱいいるって」
「むぅ、主様は少し優しすぎるのじゃ。これだけないがしろにされておるのじゃから少しは怒ってよいと思うぞ」
「ボク、怒るのあんまり得意じゃないからさ」
そう言って笑いながら頬をかくハルト。しかし現実は何も好転していない。ミスラから頼まれた買い物リストの問題は何も解決していないのだから。
「もうだいぶ時間も経っておる。こうなればわかるものだけでも買って帰るしかあるまい」
「……そうだね。情けないけどそうするしかないかな」
リリアに一人でも大丈夫だと啖呵をきって出てきたのに情けないと思いつつも、わからないものはどうしようもない。半分はわからないとはいえ、逆に言えば半分はわかるのだから。わかるものだけでも買って、謝るしかないとハルトがそう思っていた時だった。
「あれ、もしかして……ハルト君?」
「え?」
不意に後ろから声を掛けられたハルトは驚きつつも後ろを振り返る。そこに立っていたのは、フードを目深に被った少年だった。
「あぁ、ごめんね。僕だよ」
そう言って少年は顔がわかるようにフードを脱ぐ。そこにいたのはハルトが昼に出会ったばかりの少年だった。
「あ、ガル君!」
「うん。覚えててくれたんだね」
ハルトが覚えていてくれたことを喜び、嬉しそうに笑うガル。多くの人が行きかう中、ハルトとガルは偶然の再会を果たしたのだった。
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