第33話 もう一つの出会い

 ガルが落とした腕輪のようなものを拾ったハルトとリオンは出店で買った軽食を食べながら戻ってこないかどうかを待っていたのだが、結局一時間以上経っても戻って来る様子が無かったため、結局諦めて神殿へと帰ることになった。そのまま捨てて帰るわけにもいかず、ハルトが持って帰ることになった。王都には落とし物を預かってくれるような場所はないのだ。たとえどれほど高価なものであったとしても、落としてしまった時点でその人自身の過失となるのだ。


「結局ガル君戻ってこなかったね」

「まぁしょうがなかろう。落としたことに気付いているのかどうかもわからぬし、そもそもそれが大事なものかどうかすらわからぬのだからな」

「うーん、凝った装飾がされてるし高価な物に見えるから大事なものだと思うんだけどね」

「ま、気にしてもしょうがなかろう。じゃが、主様が持って帰る必要はなのではないか? 落とした場所はあの出店の場所なのじゃから、ガルもあの場所に探しに戻ってくるじゃろう。手癖の悪いものに奪われるのが心配じゃと言うなら店主に預けるというのも方法であったろうに」

「そうなんだけどね……」


 ハルトとガルが出会った場所にいた出店の店主。ガルが戻ってくるとしたならあの場所なので、その場所にいた店主に預けるというのも一つの手であったのは事実だ。しかし、悪い視方をすればその店主が隠して奪ってしまう可能性もゼロではない。ハルトはそこまで疑っていたわけではないが、それでも少しためらってしまったのだ。


「でもね、なんとなく予感がするんだ」

「予感?」

「うん。ガル君とはまた会う気がするんだ。そう遠くないうちに」

「ふーむ……《勇者》としての勘というやつじゃろうか」

「いや、そこまでおおげさなものじゃないって」

「しかし、主様がそういうのであればそうなのかもしれぬな。自身の勘を信じるというのは大事じゃからな」


 ガルの落とした腕輪を無くさないように大事に懐にしまい、ハルトとリオンは神殿へと帰ろうとする。しかしその前に、ハルトは見覚えのある人の姿を見かける。


「あ。フブキだ。おーい!」

「む、あの小娘か」


 街中を歩くフブキの姿を見かけたハルトは大声でフブキのことを呼ぶ。その声が届いたのか、フブキはピクリと反応を示し周囲をキョロキョロと見渡す。そして後ろを振り返ってハルトの姿を見つけたフブキは驚きと喜びを顔に出し、ハルトとリオンに近づいて来る。しかしフブキは一人ではなかった。その隣にはハルトの見知らぬ女の子が一人立っていた。フブキと同じ服を着ていることから魔法学園の生徒であることがわかる。


「こんなに早くまた会うことになるとは思ってなかった」

「ボクも……って言いたいけど、二人とも王都にいると案外会う確率が高いのかもね」


 二日前にフブキと会い、『キャットアイ』というケーキ屋に行ったばかりだったので久しぶりという感覚はない。次に会えるのはいつのことになるのかと思っていたハルトだったが、想像以上に早い再会に苦笑するしかない。しかし、王都の広さを考えればそれほどおかしなことでもない。ハルトの今いる神殿と、フブキの通う魔法学園もそれほど遠いわけではないのだから。


「えーと、フブキちゃん、この人たちは?」

「あ、そっか。アキラには言ってなかったね。この人は私の幼なじみのハルト。同じ街に住んでたの。そっちの子は……確かリオン……だよね?」

「うむ、間違っておらんぞ」

「それでハルトの……」

「妾は主様のしもべじゃ」

「ちょ、リオン!」

「え、しもべって……もしかしてその、幼なじみ君って貴族様なの?」

「ううん、違うよ。ハルトとこの子の関係は私もよく知らないけど……」

「えーと、その……とりあえずはしもべっていうのは忘れてくれると嬉しいです、はい」

「ま、そういうわけだから。とりあえずは私も気にしないことにしてる」

「そこ気にしないでいれるってすごいねフブキちゃん」

「ん、これも慣れ。あ、そうそう。ハルト、この子は私の同級生のアキラ」

「あ、どうも日向……じゃなくて、アキラ・ヒナタです。フブキちゃんのクラスメイトで、友達だよ」

「よろしく。ボクはハルト・オーネス。さっきも言われてたけど、フブキの幼なじみだよ」


 アキラ・ヒナタと名乗った少女は、長い黒髪を後ろで一本にまとめてポニーテイルにしていた。可愛らしい、というよりは綺麗というタイプの少女で真っすぐとハルトのことを見つめる瞳にハルトは一瞬見惚れてしまっていた。


「この間話した少しおかしなクラスメイトだよ」

「私おかしくないよっ!?」

「でもわけのわからないことよく言ってるじゃない」

「いや、それは……そうなんだけどさぁ、それには事情があるっていうかなんていうか……とにかく違うから! 違いますからね!」

「え、あ、はい」


 キッと強い瞳見られてハルトは思わずうなずいてしまう。そんなハルトの横でリオンはアキラのことを見て怪訝そうな顔をしていた。


「どうかしたのリオン」

「うーむ……お主、どこか奇妙な気配を感じるというか……この感じ、どこかで……んー、わからん! 思い出せぬから忘れるのじゃ」

「なにそれ……いいけどさ。それにしてもボク少し安心したよ」

「安心?」

「ホントにフブキもちゃんと友達いるんだなぁって。フブキって結構変わってるし」

「ハルトに言われたくない。こっちとしてはむしろハルトがちゃんとできてるか心配してるくらい。変な子もいるし」

「そ、それは大丈夫だって……たぶん」

「私の心配をする前にハルトは自分の心配をしたほうがいい」

「ふふっ、二人とも仲良いんだね」


 言い合う幼なじみ同士を前にしてアキラは微笑ましそうに笑いながら言う。


「今のを見てどうしたらそう判断できるのか理解できない」

「そうやって言い合えるのは仲がいい証拠だよ。羨ましいなぁ、私幼なじみとかいないし。私も二人みたいに言いあえる人が欲しいよ」

「でもアキラにはお兄さんがいるでしょ? いつも言い合って喧嘩してる」 

「兄さんは兄さんだから。また別の話でしょ」

「ヒナタさんにはお兄さんがいるんだ」

「うん。私達の学園の臨時講師をしてる」

「え、魔法学園の臨時講師って……結構すごいんじゃ」

「いやいやいや、すごくない。ぜんっぜんすごくないから。ダメダメな兄さんだから」


 魔法学園の講師というのはある種魔法を極めた人たちの集まりなので、そこで臨時とはいえ講師ができるというのは並大抵の才能ではない。しかしアキラは兄は持ち上げられるのが本当に嫌なようで、辟易とした顔をしていた。


「って、あそうだ。それで思い出した。早く買って帰らないとお昼休み終わっちゃうよ」

「ん、そうだった。ごめんハルト、もう行かないと」

「ううん。こっちこそごめんね急に呼び止めちゃって。ヒナタさんも」

「気にしないで、新しくお友達ができて嬉しかったし。また色々とお話したいな」

「うん、もちろん。歓迎するよ」

「それじゃあハルト、またね」

「うん、また」


 別れを告げたフブキとアキラは時間を確認するやいなや足早に去っていく。そして、それを見届けた後、ハルト達も神殿へと帰るのだった。

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