第21話 【未来視】
「……うん。今なら大丈夫かな。今なら大丈夫そうですミスラさ……ミスラさん」
ミスラの目的を聞いた後、すぐには王城に帰るわけにいかないというミスラに押し切られ、ハルトは極秘裏に神殿へと連れていくことになってしまった。神殿近くまで帰ってきたハルトは周囲の状況を確認しハルトは後ろにいるミスラに声を掛ける。「ミスラ様」と呼ばれることが嫌いだと言うミスラに命じられ、ハルトは「ミスラさん」と呼ぶことになってしまった。正直王族を「様」ではなく「さん」で呼ぶなどそれだけで胃が痛くなるハルトだったが、直々に命じられては逆らうことなどできるはずもない。
「まったく、もっとスマートに案内できないのかしら。随分変な道を通らされた気がするけど」
「す、すいません。見つからないようにしようと思ったらどうしても……」
『主様よ、我儘娘の言うことなど気にするでないぞ。イルの言っておった通りの気まぐれ娘じゃ。まったく、主様が止めなければ今すぐにでもたたき返してやるものを』
「ちょ、ちょっとリオン……すいませんミスラさん」
「別に気にしてないからいいわ。それにしても気まぐれ娘……ね。なかなかどうして的を得た言葉ね。王城でもはこの私に面と向かってそんなことを言う人はいなかったから、うん気に入ったわあなた。確かリオンだったかしら」
『そうじゃが……お主に気に入られたところで全く嬉しくないのじゃ』
「そう、残念ね」
言葉の割にはさして残念そうでもなく言うミスラ。ハルトは周囲を警戒したままミスラを神殿の内部へと案内する。見回りの兵士はいるものの、夜ということもあってその数はそれほど多くはない。警戒の目をかいくぐって部屋まで行くのはそれほど難しいことではなかった。
「ふーん《勇者》だって言うからどんな豪華な部屋にいるのかと思ったけど……案外普通の部屋ね」
ハルトの部屋に入ったミスラはキョロキョロと部屋の中を見渡すなり言う。確かにハルトに与えられた部屋は豪華ではない。豪華ではないものの、人が一人生活するには十分な広さではあった。むしろハルトにはこれでも広すぎるくらいだ。
「そうですか? ボクには十分な広さなんですけど……」
「そうなの? 今まで随分と狭い部屋で過ごしてきたのね」
「そんなことはないと思うんですけど……えと、何もない部屋ですけどとりあえずゆっくりしてください」
「そうさせてもらうわ。さすがにずっと動いてばかりで疲れたもの」
「あ、ボクお茶持ってきますね!」
ふぅ、と息を吐き椅子に座るミスラを見てハルトが慌てて部屋を出て行く。さすがに王女であるミスラに何も出さないというのはまずいと思ったのだ。しばらくして紅茶と茶菓子を持って部屋に戻ってきたハルトはそれをミスラに渡す。
「どうぞ、紅茶です」
「ありがとう。いただくわ」
「それでその……さっきの話の続きを聞かせてもらってもいいですか?」
「……そうね。話しましょう……私がなぜ、今度行われるパレードを中止したいのかということについて」
紅茶を飲んで一息吐いたミスラはその理由について話始める。
「まず、私が王族だということはもちろんわかってるわよね」
「えぇはい。それはもちろん」
「王族、王というものがどうやって決まるかは?」
「えーと……神様が……カミナ様が《神宣》で王族を決める……でしたっけ?」
「その認識で間違いないわ。そしてもちろん私も
「スキル……ですか?」
「《王》ならんとするものは国を導くためのスキルを手にすることができる……そう言われてるわ。実際に現王である父は【扇動】というスキルを持っているわ。兄二人もそう。少し違うけど似たようなスキルを持っている。でも……私の得たスキルは少し訳が違ったわ。厄介なスキルを手に入れてしまったのよ」
「どんなスキルなんですか?」
「私が得たスキルは……【未来視】。読んで字のごとく、未来を見通す力」
「【未来視】?!」
「一瞬先から数秒先、その気になればもっと先まで……私のこの目は見通すことができる。もちろんある程度の制約はあるけどね」
制約はあるというミスラだが、その力がどれほど驚異的なものであるのかということはハルトですらすぐに理解した。
「そしてこのスキルによって私は一つの未来を視たわ。この王都で惨劇が起こる未来をね」
「惨劇?」
「魔族による襲撃、王都の混乱。私はその未来を視た。そして……」
「?」
「いえ、なんでもないわ。とにかく、私はそういう未来を視たのよ」
「そんな、それじゃあ早くみんなに知らせないと!」
「今私がこの事実を言ったとして、どれほどの人が信じるかしら? この気まぐれ娘と呼ばれている私の話を」
「でもスキルのことを話せば……」
「証明はできない。確かに私は【未来視】というスキルを持っている。でも見た内容が真実かどうかなんて誰にも……それこそ私にだってわからない。未来は少しのことで変化するんだから」
それはミスラ自身が経験したことだ。たまたま見た未来を変えることができるのかと思い、行動したらその未来はあっさりと変わった。ミスラが見た未来は変えることができると判明したのだ。
「それにね、父様には話したわ。でも受け入れられなかった。私がどれほど訴えても、今さら中止になどできないと。その代わりに提案されたのは申し訳程度の警備の増強だけ。笑わせるわ。その程度で変えられるものではないというのに。諸外国への牽制を重視した父は、私の意見を握りつぶしたわ。それどころか私がパレードに出たくないから我儘を言っているのだとまで言い出した。兄達もそれは同じ……王城内に私の力になってくれる人はいなかった。だから出てやったのよ、王城をね。自業自得とはいえ、まさかここまで信じられないとは思いもしなかったわ。あの馬鹿ども」
怒り心頭といった様子で吐き出すように言い放つミスラ。何度か深呼吸をして、ミスラは気持ちを落ち着かせる。
「とにかく、そういうわけで私は王城を出て《勇者》であるあなたを探してたのよ。《勇者》であるあなたがパレードに出ないと言えばそれだけでパレードが中止になるという可能性にかけてね」
『それだけの理由で動き出したのか? 中止になるとも限らないのに』
「可能性があるなら動くには十分でしょう。私、ジッとしてるのは嫌いなのよ」
『変わった王女じゃのうお主』
「よく言われるわ。それで、あなたの答えを聞かせてもらおうかしら」
「ボクは……」
ミスラの語った王都が魔族に襲撃されるという未来。ミスラが嘘を吐いているとは考えてないハルトではあったが、急にそんなことを言われても答えを出せるはずがない。
「……まぁそうよね。急に答えを出せと言っても無理な話かもしれないわ。でもこれだけは覚えておいて、私は王都襲撃の未来をなんとしても回避してみせる。そのためならなんでもするわ」
「ミスラさん……」
「今日はもう休みましょう。あなたもちゃんと考えることね。それじゃお休み」
「あ、はい……って! ここで寝るんですか!?」
休むと言ったミスラがハルトのベッドに向かうのを見て慌てだすハルト。しかしミスラはさも当然といった様子で頷く。
「当たり前でしょ。他にどこに寝る場所があるっていうのよ」
「で、でもそこはボクのベッドで……」
「じゃあなに、今から外に出て宿でも探せって? それとも野宿でもして襲われろっていうのかしら」
「そ、そういうわけじゃないですけど……」
『お主ふざけるなよ! そこは主様が寝る場所じゃ! お主は床ででも寝ておればよかろう!』
「無理よ。私ベッドじゃないと寝れないもの」
『だー! 我儘いうでないのじゃ! お主何様のつもりじゃ!』
「王女様だけど」
「あ、あの二人とも落ち着いて。あんまり騒いだら他の部屋に……」
結局その後も言い合いを続けたミスラとリオンだったが、話がまとまることはなく。結局ハルトは部屋の中にあるソファで眠ることになってしまうのだった。
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