第16話 パレードについて

お昼過ぎになり、リリア達はアウラに呼ばれて神殿の中にある一室へとやって来ていた。が、しかし、アウラに呼ばれてやって来たというのにその部屋の中にはアウラはまだやってきていなかった。


「呼んだ張本人が部屋にいないっていうのはどうなのかしら」

「主様を待たせるとはなかなか良い度胸をしておるではないか」

「まぁまぁそう言わずに。アウラ様も忙しい方ですから。もうすぐ来られると思いますから部屋で待ちましょう」

「めんどくせーなぁ。何の話があるっていうんだよ。ハルトも何も聞いてねぇのか?」

「うん、ボクも昨日アウラさんから話があるって言われただけで……その内容までは聞いてないよ」

「私お茶を入れてきますね」


 今この部屋にいるのはハルト、リリア、リオン、イル、そしてタマナとパールの五人だ。リリアとリオンは呼んだ張本人であるアウラがいないことに苛立ちを隠す様子もなく、それをタマナが必死になだめていた。

 そして、お茶を入れに行ったパールが戻って来るのとちょうど同じ頃にアウラとエクレアが部屋へとやって来た。


「すいません、遅れました」

「ごめんねー、待たせちゃって」


 申し訳なさそうな顔をしているアウラとは対照的にエクレアはひらひらと手を振るだけでさして気にした風でもない。


「遅かったじゃない。呼んだのはそっちなのに」

「少し急用ができてしまって。そのことも含めて今から話させていただきますね」

「あ、ねぇそこの君。私も飲み物ちょうだい、ついでにお菓子もー」

「……エクレア、それは後にして」

「ごめんごめん、でもいいじゃん。どうせ長くなるんでしょ」

「そうかもしれないけど……はぁいいわ。パールさん、お願いできる?」

「あ、はい。わかりました」


 アウラに言われたパールは急いで追加のカップを用意し、アウラ達にもお茶を淹れる。


「ありがとう。それじゃあさっそく本題から。といっても、薄々わかってるかもしれませんけど。今日集まってもらったのはパレードに関することで話があったからです」

「パレードですか?」

「もう開催まで一週間をきってしまいましたから。ハルト君とイルには当日のことについてしっかり把握してもらいます。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよハルト君」

「わかっちゃいますか?」

「それはもう、表情にありありと。難しいことは要求されませんからもっと気を抜いてください」

「そーそー、もっと力抜かないとダメだよ後輩君」

「エクレア、あなたはもっとちゃんとして。先輩なんでしょ」

「だからこうしてアタシが教えてあげてるんじゃない。先輩としてのあるべき姿を」

「だらしない姿を見せないで。ハルト君に悪影響を与えたらどうするの」

「わかったからそんなに怖い目で見ないでよ。もうしょうがないなー。それじゃあ後輩君、これからアウラが話をするからちゃんと聞くようにね」

「は、はぁ……わかりました」

「ホントにあなたは……もういいわ。ごめんねハルト君。後でちゃんと言っておくから。それでね、パレードについてなんだけど、やってもらうこと自体は大したことじゃないわ。私達が用意する馬車に乗って王都中を移動した後に、王城で王様からの言葉を聞くだけだから」

「お、王様と直接会うんですか?」

「一応流れではそうなるわね。でも大丈夫、当日は私達も近くにいるし何かあったらサポートするから」


 アウラ達が当日サポートしてくれるという話を聞いて少しだけホッとするハルト。さすがに王様に会うというのに誰のサポートもないままでは不安すぎるのだ。しかしホッとしたのもつかの間、アウラの次の言葉でハルトは再び驚くことになる。


「ハルト君とイルの出番はそのパレードがメインだから。後は王城で開かれるパーティに出席してもらうことになるけど」

「パーティ!?」

「おいそんなの聞いてねぇぞ!」

「こっちは急に決まったの。私達も今日まで聞かされてなかったから。あなたの気持ちもわかるけど……こればかりはしょうがないの」


 それまで黙って聞いていたイルが、パーティがあると聞いた途端に慌てだす。イルが慌てる理由もアウラにはわかっているが、どうしようもできないことだった。


「ふざけるなよ、パーティなんてあるって知ってたらオレは……」

「イル、アウラに迷惑かけないで」

「っ!」


 アウラに詰め寄ろうとしたイルのことを視線だけで止めるエクレア。その目に射竦められ、イルは動けなくなる。


「パーティがあるって言ったらあるの。あんたにどんな事情があっても関係ない、黙ってそれに出ればいい」

「……わかった」

「ごめんねイル」

「いや、いい。今さらどうこうできるってわけでもないだろうしな」

「話を切るようで悪いけど、そのパーティって私も行けるの?」

「それはちょっとさすがに……リリアさんはハルト君の姉という立場ですけど、それだけで王城には入れないかもしれません」

「そんな……」

「妾は問題ないのじゃろう?」

「それはまぁ、リオンさんはハルト君の聖剣ですから。一緒にいることに問題はないですよ」

「ふふん」

「くっ、この……調子に乗って……」

「あの……話を進めて大丈夫?」

「あ、大丈夫です。姉さんとリオンのことは気にしないでください」

「そう? ならいいんだけど。それで話にはまだ続きがあってね。少し問題が起きたのよ。それが私達が遅れた理由でもあるんだけど」

「問題……ですか?」


 少しだけ言いよどんだ後、アウラは口を開く。


「王女様が……行方不明になったんです」

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