第68話 現れる聖剣
ロックゴーレムが完全に沈黙したことを確認したハルトは、ホッと安心して地面に座り込んでしまう。そんなハルトの元にイルとシアが駆け寄って来る。
「おいハルト、大丈夫か!」
「ハルト君!」
「あ、あぁ、うん。大丈夫だよ。ホッときたら気が抜けちゃってさ」
ロックゴーレム。確実に今のハルトの実力では倒せない魔物だった。イルが魔法を使えるようにならなければ、この場で全員殺されていただろう。
「情けねぇな……と言いたいところだけど。まぁしょうがねぇか。さっきのゴブリンから命がけだったしな」
「ホント、まさか一日でこんなに戦うことになるなんて思ってもなかったよ」
「そういう日もあるってことだろ。生きてんだからいいじゃねぇか」
「そうだね」
確かにイルの言う通りだと思ったハルトはイルと笑い合う。綱渡りの連続ではあったが、こうして三人とも生きている。ならばその結果を喜ぶべきなのだろうと。しかし問題はこの後だ、道はまだ続いているものの今のハルトに武器はない。持ってきた木剣は砕け、魔法を使えるようになったイルも顔には出していないものの、相当な魔力を消費しているはずだ。
「この後どうしよっか。ここまで来たけど、これ以上進むのは危険かな」
「この奥にロックゴーレム以上の魔物がいるかもしれないってことか」
「わかんないけど……もしかしたらね。ボクの木剣も壊れちゃったし」
「そうだな。オレも魔法が使えるのはあと一、二回ってところだ」
「ここまで来て戻るのはもったいないけど、命には代えられないもんね。戻ろっか。今度はリリアさん達も一緒に来たら——」
「帰る必要はないぞ」
突如として割り込んでくる誰かの声。反応は三者三様だったが、全員が驚いていることは共通していた。その声の人物はハルト達が入ってきた通路の反対側、進行方向からやってきた。
その人物に見覚えのあったハルトは姿を見てさらに驚き、思わず立ち上がってしまう。
「リオン!?」
「また会ったのう、ハルトよ。妾は嬉しく思うぞ」
「この声……さっきの」
「そちらの娘も、確かイルといったか? よく魔法を使えるようになったものじゃ。そしてお主は……ふふ、後にするか」
ロックゴーレムの残骸を避けながらハルト達の元へとやって来るリオン。ハルトとイルに声を掛けたあと、シアのことを意味ありげな目で見つめる。
「お主らにはロックゴーレムは少し厳しいかと思ったんじゃがな。よく倒したものじゃ」
「いや、あの……それよりもなんでリオンがこんな所にいるの?」
「それは後で話そう。まぁ、薄々気付いておるものもおるようじゃがな。さて、一応作り直しておくかの」
「作り直す?」
「こやつは一応侵入者用のゴーレムじゃからの」
リオンはそう言うと、ハルトが砕いたロックゴーレムの核の破片を手に取る。そしてリオンの手がにわかに光り、その手の中に完全に修復された核が現れる。
「今一度、生き返るがよい。ロックゴーレムよ。今度は……ここにしよう」
ロックゴーレムの頭部に手を当てると、核が吸い込まれるようにして消える。すると、ゴゴゴゴゴ、という地鳴りと共にロックゴーレムの体が修復され始める。
「ちょ、リオン! 何してるの!」
「戻しただけじゃよ。案ずるな、さぁ妾について来るがよい」
「え、えぇ……」
気にした風でもなく、ハルト達について来るよう促すリオン。どちらにせよこのまま残るわけにもいかないハルト達はロックゴーレムが完全に復活する前に慌ててついて行く。
「リオン、どうしてロックゴーレムを復活させたの?」
「言ったであろう。侵入者撃退用のゴーレムじゃとな。置いておいて損はないのじゃ」
「そういうことじゃなくて」
「それに、ここは妾の家のようなものじゃからな。自分のモノをどうしようと自由じゃろう?」
「ここが家ってどういう……」
「おい、お前。リオンとかいったか」
「なんじゃ?」
「この先に何があるんだよ」
「それはお主らが良く知っていることだろう。というよりも、お主らはそれを目的にやってきたんじゃろう?」
ハルト達の目的、それは聖剣を見つけることだ。どうしてそれをリオンが知っているのかと聞きたいイルだったが、それよりも気になることがイルにはあった。
「じゃあもう一つ聞くけどよ。さっきの声……お前なんだよな」
「もちろんじゃ。妾のような愛らしい声を持つ者が二人とおるわけなかろう」
「……なんかムカつく言い方だな」
「さっきの声って何の話?」
「オレが魔法を使えるようになりたいって思った時に、こいつの声が聞こえたんだよ。そんで、こいつの言う通りにしたら確かに魔法が使えるようになったって話だ」
「そうだったの!?」
「嘘吐く理由もないだろ。まぁ、こいつが何を考えてそんなことをしたのかは知らねぇけどな」
「なぁに、ほんの気まぐれじゃ。それよりも、そろそろ着くぞ」
リオンがそう言うと、さきほどロックゴーレムがいた空間と同じように開けた空間へと出る。
その部屋の中央には、一振りの剣があった。しかし、その剣はハルト達の予想とは大きく異なるものであった。
「あれが……聖剣?」
「お主らがそう呼ぶのであれば、聖剣なのであろうな」
呆然と呟くハルト。それも無理はない。その剣は錆びていた。どうしようもないほどに。ハルト達が剣だと認識できたのはその形状からだ。とても使えるような代物には見えなかった。しかしリオンはさして気にした風でもなく、ハルトに向かって言う。
「さぁ手に取るがよい、そなたにその資格と覚悟があるのなら……な」
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