第67話 もう一人の犯人
倉庫の柱に繋がれていたローワは自身が繋がれていることなど露ほど気にしていない様子で、自然体で座っていた。そして部屋に入ってきたリリアの姿を見て口を開く。
「あぁ、君も起きていたんだね。気分はどうかな?」
「あまり良いとは言えませんね。誰かのせいで毒をくらうことになったので」
「それなりに強力な毒を仕込んだつもりだったんだがね、まさかもう動けるようになるとは。君の体の頑丈さには驚かされるよ。それとも何か秘密があったりするのかな?」
「ローワさん、あなたは……」
「ふざけないでくださいっ!」
悪びれるどころか、ニヤニヤと楽しげですらあるローワの態度にリリアよりもさきにタマナが怒った。
「私のことも、リリアさんのことも殺そうとして……そんな人の態度がそれですか? もっと他に言うことがあるでしょう!」
「他に言うこと? 君達に謝れとでも? 笑わせないでくれ。私は今でも間違ったことをしたとは思っていないよ。結果として失敗しただけだ。私は私の心に従って行動しているだけだからね。それとも、君達は謝れば許してくれるのかい?」
ローワは決して開き直っているわけではない。心の底から、本心からそう思っているのだ。許しなど必要としてない。根本的な考え方から普通の人とは違う。
「たとえこの場で殺されたとしても、私は最期の瞬間まで自分の意志に殉じたことを誇りに思って死ぬだろうね。と、まぁこんな益体もない話をしていてもしょうがない。一体何のようでここに来たのかな? ウェルズ達に私のことを引き渡すためかな?」
「違います。最終的にはそうなるでしょうが、私はあなたに聞きたいことがいくつかあります」
「ほほう、なんだね」
「今回の一連の事件の動機を教えてください」
「言っただろう、殺したいと思ったから殺したのさ。それ以上の動機はないよ」
「ではどうしてこのタイミングだったんですか。殺したいということが理由なら、もっと多くの人をあなたは殺しているはずです」
ローワが嘘を言っていないことはリリアにもわかる。であるならばこそ、なぜこのタイミングで事件を起こしたのかということがリリアには気になった。
「もう一つ聞きます。私が、ローワさんが犯人なんですね、と聞いた時あなたは言いました。半分正解だと。これはどういう意味ですか? 他にも共犯者がいるんですか」
「さぁどうだろうねぇ。君が推理してくれたまえよ。名探偵になれるチャンスだ」
「私は探偵じゃありません。なりたいとも思いません。ハル君の姉、ただそれだけです」
「夢の無い話だ」
「それで、どうなんですか?」
「まぁ別段隠しておく理由もない……か。でも素直に教えるのも面白くないと思わないかない? せっかくなんだ。状況は楽しむべきだろう」
「楽しんでるのはあなただけです」
「ならこれから楽しむといい。いや、それとも君は焦るのかな?」
「焦る?」
「君の言う通りさ。私には協力者がいる。いや、正確にはそちらが主犯というべきかな。私は誘われ、それに乗った。そして君達はそのヒトにもう会っている」
「「え?」」
「考えてみればわかるはずだよ。私が言えるのはここまでだ。あとは君達が頑張るといい。あぁ、安心してくれ。私は大人しくここにいるから。君が見つけることができるかどうか……ここで本でも読んで大人しく待っているさ。でも、できれば急いだほうがいいかもしれないね」
「そこまで言うなら教えてくれたっていいじゃないですか!」
タマナが叫ぶが、ローワは素知らぬ顔だ。たとえリリア達が何をしたとしてもローワが口を割ることはないだろう。
「ど、どうしましょうリリアさん。もう一人探すって言っても、わかることがこれだけじゃ……」
「落ち着いてください。ローワさんは嘘を言ってないとして考えましょう。私達がこの村で出会った人はそれほど多くないですし……」
「どうしたんですか?」
ローワの言う主犯について考え始めようとした時、リリアの脳裏に閃きがよぎる。それはあまりにも突飛な想像であったが、無視できるものではなかった。思い出せば確かにおかしな所はあったのだから。
「でも……いや、そんなまさか」
「リリアさん?」
「タマナさんはここでローワさんのことを見ていてもらえますか」
「それはいいですけど……何かわかったんですか?」
「それを今から確認してきます」
言うやいなやリリアは疲労を訴える体に鞭を売って走り出す。それを見たローワは心底楽しそうにリリアの背に向かって声をかける。
「間に合うといいねぇ、リリアさん」
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