第48話 謎の少女の示す道
犯人を捜すことを決めたハルトとイルは外へとやって来ていた。
「それで、何から始めたらいいかな」
「あ? んなこと知るかよ」
「えぇ!」
「当たり前だろ。オレだってやったことないんだからんなことわかるわけねぇし。そういうのはお前が考えろよ」
「えぇ……」
当たり前のことながら、ハルトもイルも犯人捜しなどしたことはない。さらにリリアとも違って何の情報も持っていないのだ。
「どっか適当に村のやつ捕まえて話聞くか?」
「それができるならそうしたいんだけど……」
村の中を歩く人はハルト達の姿を見るなり疫病神を見てしまったかのような顔で逃げていく。大人から子供まで、ハルト達のことを避けるように歩いて行く。
実際に避けられているのだということを実感してハルトは少しだけ悲しくなる。しかしだからと言って逃げるわけにはいかない。リリアもこれに耐えているのだからと。
「ふん、ジロジロ見やがって……気分わりぃな。言いたいことあるなら直接言いやがれってんだ」
イルはそんな村人たちのことを不愉快そうに睨みつける。その苛立ちは、疑いを向けられているということ以上に、話を聞こうともしないその姿勢に向けられたものだ。
「まぁしょうがないよ。この村の人にとってボク達がよそ者なのは確かなんだし」
「こんだけ辺鄙な地だと他所から人が来ることもないだろうしな。なんでこんな場所に聖剣があるんだか」
「それに、みんながみんなってわけでもないでしょ。シアさんとか、ローワさんとか、僕達に優しくしてくれる人もいるんだし。今は余裕がないだけで、この村にも優しいひとはいっぱいいると思うんだ」
「ホントにお人好しだな、お前。まぁいいけどよ。でもどうすんだ? あの様子じゃ話しかけても相手にしてくれるかどうかすら怪しいぞ。無理やりってならまだしも」
「それはダメだよ」
しかし、イルの言う通り無理やりにでも話を聞ける状況にしなければハルト達の話を聞いてくれる人もいないだろう。しかし、そんな二人のもとに近づいて来る少女が一人。
「おや、ハルトではないか。こんな所で何をしている」
「君は……リオン!」
「まさしくリオンじゃが……何をそんなに驚いておる」
「そりゃ驚くよ。この間はさっさといなくなっちゃったし」
ハルト達の前に現れたのは、以前シア達と買い物をしたときにハルトの所に突如として現れた少女、リオンだった。ハルトにとっては思わぬ再開だ。しかし、リオンのことを知らないイルからすれば突如現れた謎の少女でしかない。
「誰だこいつ?」
「こいつではない、リオンじゃ」
「ガキのくせして変な喋り方だな」
「ガキではないわ! 妾に言わせればお主の方が……ん?」
イルのこと見たリオンが珍妙な顔をする。辛いと思って食べたものが甘かったかのような、そんな表情を。
「なんじゃお主……奇妙な色を……いや、なるほど。お主、《聖女》じゃな」
「なっ! なんでお前がそのことを知ってんだよ!」
イルはもちろん、ハルトもこの村に来てからイルの職業のことについて話したことは一度もない。この村の中で知っている人がいるとすればそれは村長のローワくらいなものだろう。
「ふん、その程度のこと妾にかかれば見ればわかるわ。それよりもハルトよ、せっかく忠告してやったというのにまだこの村におったのじゃな」
「君言ってた、良くないものがいる……っていうの?」
「それじゃ。それともわざと残ったのか?」
「そういうわけじゃないけど……君の言う良くないものっていうのは殺人犯のことなの?」
「さぁ、どうじゃろうなー」
「おいはっきり言えよ」
「それが人にものを頼む態度かのぅ?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてリオンは言う。
「んだと!」
「妾は別に良いのじゃぞ。わざわざ言う必要もないからの」
「ぐっ、この野郎……」
「ほれほれー、なんて言うのじゃ?」
「おいハル——」
「ハルトに代わりに言わせるでないぞ。お主の口から言うのじゃ」
「なっ!?」
ふざけるな、と言ってやりたいイルだったが、ここを逃せば情報を得る機会もなくなるかもしれない。さらにハルトからの乞うような視線を受けたイルは屈辱を噛みしめながら、少しだけ頭を下げて言う。
「お願い……します。おし、教えて……くれ、ください」
「しょうがないのー!」
「この野郎……覚えてやがれ」
「なにか言ったか?」
「…………」
「まぁよいがの。しかし、お主らの質問に答えてやることはできん」
「はぁ!? ふざけんなよ!」
「ちょ、イルさん。落ち着いて! リオン、どういうこと?」
「答えというのは己で手にしてこそ意味があるものじゃ。なればこそ、お主らにはヒントをくれてやろう」
「ヒント?」
「東の森にお主らの探すものは全てある」
「東の森?」
「さて、あとはお主らで探すことじゃな。ではの」
「あ、リオン! 一人で大丈夫なの?」
「はは、大丈夫じゃよ。それよりも自分の心配をすることじゃな」
なははと笑ってリオンは去っていく。その背を見送った後、イルがわなわなと震えだす。
「な、なんなんだよあいつはーーっ!!」
「ぼ、ボクに聞かれてもわかんないよ!」
ハルトの胸ぐらを掴んでイルは怒鳴る。
「あぁムカつくー! 腹立つ! 次会ったら覚えとけよあいつ!」
「で、でも情報が手に入ったのは確かだし、行ってみようよ」
「あぁ? 東の森にか?」
「うん。今のボク達にある情報ってそれだけだし。行くだけ行ってみよう」
「……それもそうだな。これで何もなかったら……ふふ、ふふふふ」
「イルさん、その笑い方怖いよ……」
そしてハルトとイルはリオンに言われた通りに東の森に向かうのだった。
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