第37話 イルは逆らえない
思いもよらぬ再会を果たしたハルト達は、シアに案内されて家までやって来ていた。
「村長からお客さんが来るって言うのは聞いてたけど、それがまさかオーネス君のことだなんて思わなかった」
「うん、ボクもクローディルさんがこの村に住んでるのは知ってたけど。まさか泊まることになるのがクローディルさんの家だとは思ってなかったよ」
「この村は他の所から人が来るようなこともほとんどないから、宿も一つしかなくて。その宿も今は他の人が泊まっちゃってるし。そうなると泊まれるのが私の所くらいしかなくて。ほら、前に言ったでしょ。うちはお父さんもお母さんも《治癒士》でね。診療所も兼ねてるから他の家よりも少しだけ大きいの。本当に少しだけどね。だから狭いのは我慢してね」
「ううん。泊めてくれるだけありがたいよ。ね、姉さん」
「そうね。さすがに野宿はしたくないもの」
「ここまでの道中で私達が野宿に向いてないことは身に沁みましたしねぇ」
「オレも野宿はこりごりだ」
「オレ?」
「あー、その、この子ちょっと言葉遣いが悪いの。ごめんなさい。あんまり気にしないでちょうだい」
「いえ、別にいいんですけど。変わった子なんですね」
まさかイルが元男で、しかも以前出会ったガイルであるとは微塵も思っていないシアはリリアの言葉を素直に受け入れる。
「あ、そこが私の家です」
シアがそう言って指さしたのは、他の家と比べて一回り大きな家だ。ぱっと見ただけではこの家が診療所だとはわからないが。
「いい家だね」
「そう? ありがと。まぁとにかく入ろう。みんな疲れてるでしょ?」
家の中に入ると、その中はリリアの想像していた以上に広く、綺麗に整えられていた。
「あの、用意できた部屋が二つしかなくて……どうしますか?」
「それなら私とハル君が同じ部屋でいいわ。みんなもそれでいいでしょ?」
「まぁ、それが妥当ですよね」
「うん、ボクもそういうことなら姉さんと一緒でいいよ」
「オレは寝れるならどうでもいい」
「そっか。それならいいんですけど。夜ご飯はこっちで用意するので、できたらお呼びしますね」
「そこまでしてもらっていいの? なんなら外に食べに行くのだけど」
「あはは、大丈夫ですよ。お母さん久しぶりのお客さんだって張り切ってましたし。それにその……言いにくいんですけど、今他所から来た人はあんまり歓迎されてませんから。あ! これは皆さんが悪いわけじゃないですよ! それに村の人が全員嫌ってるってわけじゃないですし」
わたわたと慌てて言うシア。もちろんリリア達もローワから村人の現状については聞いていたので気分を害するようなことはなかったが。
「……すいません。本当はみんな優しい人なんです。でも……」
「しょうがないわ。私達も無理は言えないし」
「あ、でもですね。お母さんの料理はすっごくおいしいんですよ。村でも有名なんです。お母さんの料理が食べたくて仮病使って入院しようとする人までいるんですから」
「そうなの? それは楽しみね」
「ボクも。ご飯食べるの好きだし」
「うん、楽しみにしててね。あと、せっかくだからこの村にあるちょっとした観光場所でも案内しますか? ずっと家にいるだけだと暇でしょうし」
「せっかくだけど私はいいわ。少しやっておきたいことがあるの。ハル君とイルは行ってきたらどう?」
「え、いいの?」
「もちろん。でも、あんまり遠い場所に行っちゃだめよ」
「あ、私も行きた——」
「タマナさんは私の手伝いをしてくださいね」
「……はーい」
「オレもいい。部屋の中で寝てるから」
「え、そんなこと言わないでイルさんも一緒に行こうよ」
「いや、だからオレは……」
「イル、せっかくの機会だし行ってきたらどう? ね?」
「だからオレは——」
苛立たし気にリリアの方を見ようとしたイルはそこで気付く。
うだうだ言ってねぇでお前も一緒に行け、とリリアの目が訴えていることに。おそらくハルトとシアを二人きりにしたくないのだろう。ならお前が行けよ、とイルは言いたかったがそれを言っても無駄なことはこれまでの短いつきあいでもわかっている。
「はぁ、わかったよ。オレも行けばいいんだろ」
こうしてイルは不本意ながらもシアとハルトについて行くことになったのだった
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