第36話 ダミナという村
ゴブリンの討伐から三日後。リリア達はダミナの村へとやって来ていた。
ハルトやタマナの怪我の事を考慮して少しゆっくりと進んだ結果、予定よりも遅れて村に着くことになってしまった。
その道中、コボルトの群れに襲われたり、オークに襲われたり、イルが拾い食いした果実でお腹を壊したりと様々な波乱があったのだが、それはまた別の話。
ともあれ、苦難を多少の苦難を乗り越えてダミナへとやって来たのだ。
「や、やっと着いた……」
「遠かったですー」
「うぅ、まだ腹が痛い気がする」
「次に拾い食いなんかしたら承知しないわよ」
それぞれが少し疲労を滲ませた表情をしながら、ハルト達は村の中へと入る。
「それにしても……なんだか村の様子が変じゃない?」
「確かに……言われれば変ですね」
村に入った途端にリリア達に向けられる視線。しかし、その視線は決して好意的とは言えないものだった。どこか疑うような、恐れるような目をリリア達に向けている。
「ふん、どうせよそ者だからだろ。田舎者ってのはだいたいそうだ。都会から来たやつを嫌うんだよ。なんもしてなくても勝手にな」
「ちょ、イルさん。そんな言い方ダメだよ」
「じゃあなんもしてないオレらをあんな目で見るのはいいのかよ」
「そういうわけじゃないけど……」
「はぁ、イルもハル君も無視しておきなさい。気にするだけ無駄よ」
ジロジロと見てくる村人達を不愉快そうに見るイル。イルと目が合った村人はサッと視線を逸らすとそそくさと立ち去ってしまう。
リリアと目が合ってもその反応は同様で、これにはさすがのリリアもため息を吐くしかない。
「と、とにかく! 村長さんの家に行きましょう。そこで聖剣のある洞窟についての詳しい話を聞かないといけませんし」
「そうですね。それに村長ならなんで村の人たちが私達のことをあんな目で見るのかも聞けるかもしれないし。もっとも、村長も同じような目で見てくる可能性はあるけど」
「そ、そんなことはない……と思います。たぶん、はい」
「お前が自信なさげでどうすんだよ」
村の中央にある村長の家。他の家に比べれば少し大きいが、それほど大きな差異があるわけではない。タマナに言われなければ村長の家だということすらわからなかったかもしれない。
村長の家に着いたリリア達。ノックをすると中から顔を出したのは恰幅の良い中年のおばさんだった。
「あら、あなた達誰かしら? 見かけない顔だけど」
「初めまして、神殿からやってきました。村長さんはご在宅でしょうか?」
「あぁ、あなた達が! えぇえぇ、話は聞いてます。ローワさんならいますよ。どうぞ中に入ってちょうだい」
「ありがとうございます」
おばさんに案内され、応接室で待っていると眼鏡をかけた苦労人顔の男性が先ほどのおばさんと共に部屋に入って来る。
「あぁ、君達が勇者一行なのかな? 話は聞いているよ。私がこの街の村長のローワだ。よろしくね」
「はじめまして、リリア・オーネスです」
「ハルト・オーネスです」
「イルだ」
「タマナです」
「えーと、君が《勇者》なのかな」
「あ、はい。そうです」
「そうか。君が新しい《勇者》か。いい目をしている」
「ありがとうございます」
「うんうん、私ももっと若い頃は君のような輝く目をしていたものだよ。そうそう、これは昔のことになるだけど——」
「ゴホン! ローワ様」
「あ、そうだった……ごめんごめん。話すのが好きでね。どうしても余計な話ばかりしてしまうんだ」
リリア達は想像していたよりもずっと若い村長が現れたことに少しだけ驚きつつも、外の村人と違って友好的な態度であることに少しだけホッとする。
「それで、聖剣の見つかった洞窟についての話だよね。本当ならすぐにでも案内したいんだけど……今はどうにもそういうわけにはいかなくてね」
そう言ってローワは困ったように頬をかく。
「もしかして……それって外の人たちの私達への態度と関係あるんですか?」
「……そうだよ。私達の村は今少し困ったことになっていてね」
「困ったこと?」
「そう。実はね——」
ローワが何か言おうとした瞬間、家の扉が激しく叩かれる。
「村長! 村長はおるか!」
家の外から聞こえてくる大きな声。それを聞いたローワはげんなりとした表情で小さく「やっぱり来たか」と呟く。
「すまない。君達は家の奥の方の部屋の移動してくれないか。すぐに終わらせるからさ。アンジー、案内してあげて」
「はい。皆さんこっちへ」
おばさん、改めアンジーに連れられてリリア達は家の奥の部屋へと移動する。
「どうして移動しないといけないんですか?」
「静かに。すぐわかりますから」
リリア達が移動したことを確認すると、ローワは家の扉を開き外にいた人物を家の中へと迎え入れる。そして入ってきたのは騎士姿の大男だった。その後に続いて、数人の男が一緒に入って来る。
「む、やはりおるではないか。なぜすぐに開けなかった」
「すいません。ちょっとバタバタしてまして」
「ふん、これだから田舎者は村長まで鈍間か」
「はは、すいません」
「構わん。それより村長よ。今日こそ返事を聞かせてもらうぞ。聖剣の在り処についてのな」
「ですから何度も言ってますが、私達は聖剣のことについては何にも知らないんです」
「嘘を言うな! この村の近くにあるということはわかっているのだ!」
ヘラヘラと誤魔化すように笑うローワの胸ぐらをつかまんばかりの勢いで詰め寄る男。しかしそれでも表情を変えないローワに呆れたのか男はローワから離れる。
「いつまでも隠し通せると思うなよ。私は気が長い方だが、それもいつまでもというわけにもいかん。もしかしたら……村人に何か起こるかもしれんなぁ」
「っ!?」
「それが嫌なら早く教えることだ。それではな。また来る」
男はそう言って家から出て行く。ローワは男達が完全に近くからいなくなったことを確認すると、奥の部屋に移動させていたリリア達のことを呼ぶ。
「……今の人たちが理由ですか?」
「そうだよ。恥ずかしながらね」
「隣国の騎士達……ですね」
「なんで帝国の騎士共がこの村にいるんだよ」
「聞いての通りだよ。彼らも聖剣を欲しがってるんだ」
「ここはシスティリア王国の中だぞ? あいつらが勝手に闊歩してていいはずがねぇ」
「確かにそうだよ。でもここは国の端も端。国境の境に近いんだ。この村まで来るのは簡単なんだよ」
「そうだとしても、帝国の連中がいるんだぞ? そんなの国が許すわけがないだろ」
「もちろん私達も王都に向けて陳情書を出したさ。でも、結果はご覧の通り無視。ただ一言、聖剣のことだけは絶対に教えるなとだけ言ってきてね。そうしてできあがったのが村の中を我が物顔で歩き回る帝国の騎士と、国から見捨てられたと思っている村人達といわけさ。国にとっては私達のような小さな村なんてどうでもいいんだろう。そのために帝国とことを構える余裕なんてないのさ」
諦めを含んだ声音で呟くローワ。それを聞いてしまったリリア達は何も言えなくなってしまう。
「あぁ、ごめんね。君達が悪いとかそういうわけじゃないんだ。気にしないでくれ。もう少ししたら騎士達も一度国に帰るはずだ。そのタイミングで聖剣の洞窟に向かって欲しい」
「いいんですか?」
「もちろんだよ。《勇者》は魔王を討伐しなくてはいけない。これは国も何も関係ない。ヒトという種族そのものの問題だからね。できることがあるなら協力するさ」
「……ありがとうございます」
「とりあえずしばらくは村の中で過ごして欲しい。泊まる場所は用意してあるから。アンジー、彼女を呼んで」
「はい、わかりました」
少しの後、アンジーが一人の少女を連れて部屋に戻って来る。
「あ」
「あ!」
その少女の顔を見た瞬間、ハルトは驚きの表情を浮かべる。
「オーネス君!」
「クローディルさん!」
その少女は、ハルトが『神宣』の時に出会った少女、シア・クローディルだった。
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