第23話 出発の時

 リリア達がシーラの家に行くと、ちょうどシュウ達もシーラの家にやってきていた。


「そろそろ来るんじゃないかって思ってた」


 訪ねて開口一番、シーラがそう言う。


「どうしてわかったの?」

「あのねぇ、何年あんたの幼なじみやってると思ってるのよ」

「そういうものかしら」

「そういうもんなの。で、もう行くの?」

「えぇ、後少ししたら王都に向かうわ」

「そっか……寂しくなるね」

「全くだ。リリア目当てにきてたおっさん達とか特に寂しがるんじゃないか?」

「大丈夫でしょ。それに、これが永遠の別れってわけでもないわ」

「なんか冷たい。寂しがってるアタシがバカみたいじゃん」

「寂しがってくれるんだ」

「当たり前でしょ」

「シュウも?」

「オレは別に寂しくなんて……あぁ嘘嘘、ホントは寂しいよ。大事な友達が遠くに行くんだ。寂しくないわけがないだろ」


 シーラにジトっとした目で睨まれてシュウはリリアから目を逸らしつつも本音を告げる。そんな二人の想いを聞いたリリアはクスッと笑う。珍しく、ハルトに向けるような優しい笑顔で。


「そっか。じゃあ寂しがりな幼なじみ達の為にもちゃんと帰ってこないとね」

「当たり前でしょ。絶対……絶対無事に帰ってきてよね」

「元気でな」

「えぇ。必ず帰ってくると約束する」


 そう言った後、リリアはシーラの耳元にそっと近づいてボソッと言う。


「帰って来るまでにシュウとの良い報告期待してるね」

「なっ、ばっ!」

「ん? どうしたんだ?」

「うっさい! あんたには関係ないでしょ!」

「いてぇ! いきなり何すんだよ!」

「はぁ、またケンカしてる……」

「またって何よ! 元はといえばリリアが——」


 それまでのしんみりとした空気から一変、いつも通りの騒がしい空気が三人の間に流れ始めた。

 一方、ハルト達もまたリリア達と同じように別れの言葉を交わしていた。


「ホントに大丈夫なの?」


 心配そうにユナが問いかける。これまでハルトが戦う姿など見たことがないのだ。心配するのも無理はないだろう。


「大丈夫……とは言い切れないけど、姉さんもいるし。きっと大丈夫だよ」

「確かにリリアさんはバカみたいに強いけど、あんたはへなちょこだし、弱虫だし……」

「ユナ言い過ぎ、ハルトは確かにへなちょこで弱虫かもしれないけど。もっとオブラートに包んで言わなきゃ」

「否定はしてくれないんだ……」

「もし無理そうだったら、すぐに逃げるのよ。いつだって帰ってきていいんだから。もしうだうだ言う奴がいたら私がぶっ飛ばしてあげる」

「あはは……」

「ユナって時々リリアさんみたいなこと言うよね」

「そんなことないわよ! っていうか、フブキは何も言わなくていいの?」

「わたし? まぁそうだな……それがハルトの決めた道なら私は応援するよってことくらいかな。でもユナの言う通り、無理はしなくていいんだからね。逃げるって悪いことじゃないんだし。私は魔法学校がしんどかったらすぐに逃げる」

「それはどうなんだろう……でも、ありがとう」

「前にも言ったけど、私も数日後には王都だし。もしかしたらハルトとは王都で会えるかもね」

「そういえばそうだね。ユナはシーラさんと一緒に働くんだよね?」

「うん。二人が帰って来るまでにびっくりするぐらい料理上手になってやるわ!」

「そっか、楽しみにしてる」

「そうやって胃袋ゲットだね」

「そうそう……って違うわよ!」

「胃袋?」

「ハルトは気にしないで」

「そーそー、気にしちゃダメだよ」

「え、う、うん。わかった」

「ゴホン、それじゃあハルト——」

「「行ってらっしゃい」」


 それぞれが離れることへの寂しさを抱えながら、ユナとフブキは笑顔を浮かべてハルトに向けて言う。

 それを受けたハルトも、笑顔を浮かべて言った。


「うん、行ってきます!」


 こうしてリリア達はシーラ達との別れを済ませたのだった。





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 そして一時間後、転移門の前にはアウラ達、そしてハルトのリリアの姿があった。見送るためにルークとマリナの二人も来ていた。


「いよいよ行くんだな」


 ルークが感慨深げに呟く。


「いいかハルト、お前は決して弱いわけじゃない。たとえどんなことがあっても自分を信じれば道は開けるはずだ」

「ありがとう父さん」

「リリア。お前もだ。言うまでもないだろうがな」

「もちろん。父さんこそ、家の事お願いね。あと、私達がいないからってお母さんといちゃつき過ぎないでよ」

「それは無理な話だ。俺は母さんのことを愛してるからな。せっかくなんだ。お前も王都でいい男でも見つけてきたらどうだ」

「いや、興味ない。ハル君がいたらそれでいいもの」

「はぁ……お前らしいな。それじゃあハルトのことよろしく頼んだぞ」

「うん」


 ルークが言い終えると、今度は後ろにいたマリナが二人に近づいて来る。


「小さかったあなた達が家を出る日が来るなんてね……嬉しいような、悲しいような。ううん、違うわね。母として、あなた達の成長を喜ぶわ」

「ありがとう母さん。母さんも元気でね」

「そうそう。いつまでも若作りできるだけの元気を保って——いたたたたた!!」

「どうして、あなたは、いつも、余計なこと、言うのよ!」

「ごべんなさい……」


 マリナに頬をつねられたリリアは涙目で謝る。

 深く息を吐いたマリナは二人のことをギュッと抱きしめる。


「まったく……それじゃあ行ってらっしゃい。たまには帰って来なさいよ」

「うん」

「わかった」


 そう言ってマリナは名残惜しそうに二人のことを放す。


「よろしいですか」


 ルーク達と話している間、黙ってみていたアウラが声を掛けてくる。イルが両親と話すリリア達のことを少しだけ羨ましそうに見ていたのは気のせいだろうか。


「えぇ、準備はできてるわ」

「ボクも大丈夫です」

「それでは参りましょう」


 アウラの指示で、転移門がゆっくりと開かれていく。

 いよいよ時が来たと、僅かに高揚する心を落ち着けながらハルトは転移門をくぐって再び王都へと向かった。

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