第24話 王都での再会

 王都に着いたハルト達はそのままの足で神殿へと向かっていた。


「やっぱり王都って人が多いなぁ」

「そうですね。王国の各地から人が集まり、流通の中心となっている。それが王都ですから。流行の最先端を求めて諸外国からやって来る方々も多いですし」

「そうなんですね」


 『神宣』の時ほどではないとはいえ、ハルトの住んでいた街とは比べ物にならないほどの賑わいを見せている王都を見たハルトが感嘆とした様子で呟く。

 子供のようにキョロキョロと周囲を物珍しそうに見渡しているハルトのことを微笑ましそうに見つめるリリアとアウラ。イルは逆にそんなハルトのことを小馬鹿にしたように見ていた。


「お前なぁ、あんまりキョロキョロしてんじゃねーよ。一緒にいるオレまで田舎者だと思われんだろうが」

「あ、ご、ごめん」

「ちょっとイル。何ハル君のこと責めてるのよ」

「いや、別に責めたわけじゃねぇって」


 リリアに睨まれたイルは焦ってハルトを責めたわけではないと否定する。リリアの強さや恐怖を味わっているイルは若干リリアのことが苦手になっていた。


「次にハル君のことを馬鹿にしてみなさい。地獄を見せるから」

「ひぅっ!」

「姉さん!」


 イルとリリアの間に割って入るハルト。


「これから一緒に旅する仲間なのに怖がらせてどうするの。仲良くしないとダメでしょ」

「うっ」


 いつになく厳しい目でハルトに見られたリリアは思わずたじろぐ。


「ごめんねハル君。お姉ちゃんがちょっと考え無しだったわ」

「ううん。ボクのために怒ってくれたのにごめんね。でも、ボク達これから一緒に旅する仲間なんだからさ。せっかくなら仲良くしたいなって思ったんだ」

「良い考えだと思うよハル君。お姉ちゃんすごく賛成。そうよね。仲良くしないとね」


 ハルトに少し言われただけで意見をコロッと変えるリリア。ハルトの意見の前ではリリアはあっさり意見を変えるのだ。


「それじゃあイル。仲良く、しましょうね」

「……あ、あぁ」


 脅すような表情から一転、満面の笑みでイルに握手を迫るリリア。笑顔であるというのに恐怖を感じるという不思議な感覚に襲われながら、引きつった笑みで握手に応じるイル。応じなければどうなるかわからないだけの迫力が今のリリアにはあった。


「お話は終わりましたか? であればハルト君とリリアさんの泊まる場所についての説明をしたいのですが」

「そういえばそうね。王都に宿でもとればいいの?」

「いえ、あなた達には神殿に泊まっていただければと思っています。神殿内であれば身の回りの世話をするものを用意できますから」

「まぁ泊まれるなら別にどこでもいいけど」

「できるだけ快適に過ごせるように努めますので」


 神殿に着いたリリア達はアウラにそれぞれの部屋へと案内される。


「私とハル君は同じ部屋じゃないの?」

「さすがにそれは……男女七歳にして席を同じうせずと言いますし」

「男女の前に姉弟なんだけど」

「それでもやはり外聞というものがありますから。その……」

「面倒ね。まぁしょうがないけど。ハル君は一人で大丈夫? 寂しくない?」

「大丈夫だよ。ボクだってもう十五歳なんだから」

「ならいいんだけど。何かあったらすぐにお姉ちゃんに言うのよ」

「もう、姉さんは心配しすぎだってば」

「そんなことないわハル君。王都は危険な場所なんだから」

「さすがにそこまで治安の悪い場所ではないのですが……そ、それはともかく、二人のお世話をする人を紹介させていただきますね」


 アウラがそういうと、奥から二人の巫女が現れる。どちらもリリア達とあまり年の離れていない女性達だった。しかも、そのうちの一人はリリアの顔見知りであった。


「タマナさん?」

「え、リリアさん!?」


 現れた女性の一人はリリアの『神宣』を請け負った巫女であるタマナであった。それ以降、秘密を共有する仲間として何度も話している。リリアの王都にいる数少ない友人の一人であった。


「二人はお知り合いでしたか?」

「まぁちょっとね」

「色々とありまして……」

「でしたら話は早いですね。リリアさんのお世話はタマナさんにお願いしましょう」

「えぇ!? 私がリリアさんのお世話役ですか!」

「何か不満でも?」

「そういうわけじゃないんですけど……リリアさん弟君についての話をしだすと長いからなぁ……できるだけ弟君の話はしないようにしないと……」


 小声でボソボソと呟くタマナ。今までにもリリアからハルトについての話をされて一日を潰されたことのあったのだ。それが軽くトラウマになっていたりする。


「……ってあれ? どうしてリリアさんがここに?」

「何も聞いてないの?」

「私達は大事な客人が来るからもてなすようにとしか……もしかしてリリアさんのことですか?」

「私……というより、私の弟のハル君ね。私はその付き添いだから」

「え? 弟?」


 そう言われてタマナは初めてハルトの存在に気付く。


「あぁ! あなたが噂の!」

「う、噂?」

「えぇそりゃもう。リリアさんから会うたびに耳にタコができるくらい君の話はきかされましたから。うわぁ、でも本当に可愛いですね。リリアさんが溺愛するのもわかります!」

「ちょっとタマナさん。ハル君にあんまりベタベタしないでください」

「あ、ごめんなさい。ついはしゃいじゃって」

「いえ、ボクはいいんですけど……」


 初対面の年上の女性に可愛いと愛でられて若干戸惑うハルト。そんなハルトのことを微笑まし気に見ていたアウラはタマナの横にいたもう一人の巫女をハルト達に紹介する。


「タマナさんに続いて、ハルト君の世話役をお願いするのはこちらのパールです」

「よ、よろしくお願いします」


 若干緊張気味にに頭を下げたのがパール。今年巫女に選ばれたばかりの新米巫女だ。


「パールはハルト君と同い年ですので話しやすいと思います。王都でわからないことがあったら彼女に聞いてください」

「はい。それじゃあパールさん、よろしくお願いします」

「はい。至らない点も多々あると思いますので、何かあればすぐに言ってくださいね」

「それでは今日はもう遅いですし、動くのは明日からにしましょう。これからよろしくお願いしますね」


 そしてリリア達はそれぞれの部屋へと向かい、明日からの旅に備えて体を休めることになった。


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