第22話 聖剣の存在
「ほほ、強いの。お主は。とはいっても、ワシがもう少し若ければ勝負はわからんかっただろうがな」
「……そうですね。最初に手加減されてなければ、あの一撃で負けていたかもしれません」
「謙遜を。それでも負ける気はなかっただろうに」
「もちろんです。ハル君が……弟が見てますから」
「なるほどの。それがお主の原動力か」
「えぇ」
「姉さん!」
勝負の決着が着いた後、ザガンと話しているとハルトがリリアの元へと駆け寄ってくる。
「すごいよ姉さん。まさかホントに勝っちゃうなんて」
「あらハル君。私のこと信じてなかったの?」
「そういうわけじゃないけど。でも姉さんの戦う所を見るのは初めてだったから」
「ふふ、でもこれでわかったでしょう。お姉ちゃんは結構強いんだから」
「うん。ボクも姉さんみたいに強くなれるように頑張るよ!」
そう言って笑顔を向けてくるハルトの頭を優しく撫でるリリア。
「仲の良い姉弟じゃの。羨ましいわい」
「それほどでもあるわ。私とハル君は最高の姉弟だもの」
笑いあうリリアとハルトの姿を微笑ましそうに見つめていたザガンは、立ち上がって表情を引き締める。
「さて、これで勝負は終了した。この少女が……リリアが旅についてくることに異論ある者はいないな」
「「「「はい!」」」」
ザガンの言葉に他の騎士たちが了承の意を示す。その目には戦う前のようにリリアを《村人》だ女だと侮るような色はない。強き者には敬意を示す。それがザガンの部隊の教えだ。何よりも彼らはその実力を間近で見ているのだ。
「アウラ様、これが我々騎士の答えです。この少女であれば問題ないかと」
「……そうですか。ありがとうございます。私としてもリリアさんがついて来ることに異論はありません。むしろ心強いくらいです」
そう言ってアウラはリリアに笑顔を向け、手を差し出してくる。
「これからよろしくお願いしますね。リリアさん」
「えぇ」
「それと……」
リリアと握手を交わしたまま、アウラは耳元にそっと顔を近づけて呟く。
「あなたが『職業』のことで何かを隠しているのはわかりました。今はなにも聞きませんが……いつか話していただけますね」
この戦いでのアウラの目的は元々リリアの秘密を暴くことだった。そして、ザガンとの戦いで確信した。リリアは何かを隠していると。
途中から急激に変化した動き。増した力。それは《村人》ではなしえないことだ。それが何かまではわからなかったものの、収穫としては十分だとアウラは考えていた。
「……あなたが信用に値すると思ったら教えてあげるわ」
「では信用していただけるように努力するとしましょう」
アウラに嘘が見破られたリリアであったが、さして動揺はしていなかった。もともとアウラが怪しんでいることはわかっていたということもあるが、ザガンとの戦いで姉力を解放した時点でこうなることはわかっていたからだ。
「それではこれからのことについて話させていただきます」
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家の中に戻ったハルト達はアウラからこれからの行動についての説明を受けていた。
「早急ではありますが、ハルト君とリリアさんにはこれから私達と一緒に王都まで行っていただきます。そこで旅の準備を整えてもらってから最初に行っていただきたいのはこの街です」
そう言ってアウラは地図上にある一つの街を指さす。そこはハルトの住む街『ルーラ』から遠く離れた場所にある街『ウォル』であった。
「あれ、ここって……」
「知ってるのハル君?」
「いや、この街のことは知らないんだけど、その近くにあるこの村……ダミナってこの間『神宣』の時に出会った子の住んでる村だったなって思って」
「あの時の女の子が……そうでしたか、それは運がいいかもしれません」
「どういうことですか?」
「ウォルに行っていただきたいとは言いましたが、より正確に言うならば行っていただきたいのはその先にある村のダミナです。転移門はウォルまでしか繋がっていないので、この街から直接向かっていただくことになりますが」
「どうしてその村にいかないといけないの?」
「実は……この村の近くに聖剣が眠っているということがわかったのです」
「「聖剣!?」」
リリアとハルトの驚く声が被る。
しかし驚くのも無理はない。聖剣は勇者の物語に必ず出てくる特別な武器。一振りで魔を払い、地面を砕く力を持っていると言われているのだ。しかし聖剣は物語を彩る脚色、架空の武器だと思われていたのだから。
「聖剣って実在するの?」
「はい。伝承の通り強大な力を持っているのも事実です。ただ……いえ、これは実際に会えばわかるでしょう」
「会う?」
「とにかく、『神宣』の直後にこのダミナの近くにある洞窟から聖剣の反応が確認されました。ハルト君達にはまずそれを取りに向かってもらいたいのです」
「あなた達が取ってきちゃダメなの?」
「そうできればそうしたいのですが……聖剣は《勇者》にしか触れないのです。それ以外の者が触ろうとしても吹き飛ばされるだけです」
「ふーん、そうなんだ」
「あまり大人数で行くわけにはいきませんので、この村にはハルト君、リリアさん……そしてイルの三人に行っていただきたいと思います」
「はぁ!? なんでオレが、聞いてねぇぞ!」
「イル。《聖女》の仕事については説明したはずですよ」
「そんなことオレが知るか! だいたいオレはやるなんて一言も——」
「またそうやって逃げるのですか」
「っ!?」
「これはあなたにしかできないことなのです。どうか受け入れてもらえませんか」
「……ちっ」
イルは舌打ちしてそっぽを向く。しかし、拒絶をしないということは受け入れたということなのだろう。
「大丈夫なの?」
「はい。本当はこの子もわかっているはずですから」
「ならいいんだけど……ハル君に迷惑かけるようなら容赦しないわよ」
「その時はどうぞ遠慮なさらず。イルにもいい薬になるでしょう」
うふふと笑いあう二人からは若干黒いオーラが漏れていた。それを見た他の人は冷や汗を流す。イルも顔を背けたまま一瞬怯えるように肩をピクリを揺らした。
「それでは準備ができ次第出発したいのですが……」
「私はいつでも……って言いたいところだけど、挨拶だけさせてもらってもいいかしら。すぐに終わるわ」
「もちろんです。ではそうですね……一時間後に転移門の前でよろしいですか?」
「えぇ。それじゃあハル君、シーラ達にもう一度挨拶しに行きましょうか」
「うん」
そしてリリア達はシーラ達の家へと別れの挨拶をしに向かった。
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