第8話 『神宣』 その3
ハルト達はシアを加えて『神宣』の受けるための列に並んでいた。
待っている間、特にすることがないハルト達はここで会ったのも何かの縁ということで、お互いのことについて話していた。
「そういえばシアはどこから来たの?」
「私は東の方にある『ダミナ』っていう村から来たの。そっちはみんな一緒なの?」
「うん。私達は西の方にある『ルーラ』って街からよ。王都からはそんなに遠くないけどね」
「そうなんだ。私の村はこの国の端っこの方だから。この王都に来るのにも転移門のある街までいかないといけなくて大変だったんだ」
「一緒に来た人とかいないの?」
「うん。同じ村には年下の子か年上の人しかいなかったから。同じ年の人はいないんだよね」
「兄弟はいないの?」
「うん。一人っ子だよ。あなた達は?」
「私はお姉ちゃんがいるよ」
「ボクも姉さんがいるよ」
「わたしはお兄ちゃんが。ちょっと鬱陶しいけど」
「リリアさん……ハルトのお姉ちゃんだけど、こいつのこと溺愛してるんだよね」
「そうなの?」
「え、うーん……そうなのかな?」
「あれが溺愛じゃなかったらなんだって言うのよ」
「どんなお姉さんなの?」
「そうだなぁ……姉さんは簡単に言うなら……超人かな?」
「完璧超人よね。ハルトを溺愛していることを除けば」
「すっごく綺麗だしね~。今までに何人から告白されたかわかんないくらいだし。幼なじみってだけでお兄ちゃん恨まれたりしてたし」
かつてフブキの兄であるシュウがリリアの家に行っただけでその日の夜にリリアのファンから闇討ちされそうになったこともあるほどだ。その後、リリア本人が問題を処理し、以降闇討ちのようなことが行われることはなくなったが、それでもシュウに対するやっかみがなくなったわけではないのだが。
「そんなに綺麗な人なの?」
「さっきのミルスティンって人と同じくらいかな」
「そんなに!? ちょっと会ってみたいかも」
「外にいるから会えると思うわよ」
「そうなんだ。また後で会ってみたいな」
「そういえばさ。クローディルさんはなりたい『職業』とかあるの?」
どんどんと順番が近づいて来て、ふと気になったハルトがシアに尋ねる。
「そうだなぁ……なりたいのがあるとしたら《治癒士》かな。なれるかどうかはわからないけど。私のお父さんもお母さんも《治癒士》だったから」
「へぇそうなんだ。珍しいね」
「ハルト君達は?」
「ボクは……そうだな。なれるならお父さんと同じ《騎士》がいいかな」
「私は……そうね、王道的に《魔法使い》とかかな。いっぱい魔法使ってみたいし」
この世界にもある魔法。しかし、その魔法の多くは【生活魔法】と呼ばれるもので、料理をするために火をおこしたり、洗濯物を乾かすために風を出したりといったものばかりだ。とても魔物を撃退したり、討伐したりするときに使えるものではない。それを可能にする職業が《魔法使い》なのだ。
「わたしは……特にないかも」
「あんたはいっつもそれね」
「変に期待するよりはいいかなって」
「なれるかどうかもわからないものね。私も《治癒士》になれたらいいとは思うけど、何になっても受け入れるつもりよ」
「私だってそうだけどさ」
「でも《魔法使い》になると学校にいかないといけないんだよね」
「え、そうなの?」
「うん。母さんが言ってた。正しい魔法の使い方と、自分にあった属性の魔法を調べるために二年間学校に行かないといけないって」
「そっかハルトのお母さんって《魔法使い》だっけ。でもそっかー、学校かー……それは嫌かも」
「次の者、前へ!」
一人の神官が声を上げて、列に前にくるように促す。いよいよハルト達の番だ。
十人ほどの巫女が並び、それぞれの前にある水晶で適性を診断するのだ。
「あ、私達だ。うぅ、いよいよか」
「緊張するね」
「まぁすぐ終わるだろうし。早く行こうよ」
「心の準備くらいさせてよ」
「その時間は十分あったと思うけど」
「足りてないの!」
「あの、そろそろ行かないと……」
シアに言われて目を向けると神官の人が早くしろ、といった目でハルト達を見ている。ただでさえ人数が多いのだ。少しでも早く終わらせたいのだろう。
「よし、行こっか」
「そうね。女は度胸よ」
「愛嬌じゃないの?」
「今は女だって度胸のいる時代なのよ。それじゃあまた後で会いましょう」
そうしてハルト達はそれぞれ『神宣』を受けに向かうのだった。
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ハルトが指定された巫女の前に向かうと、そこにいたのは先ほど会ったアウラだった。
「ミルスティンさん!」
「あら、また会いましね」
また会いましょうとは言われたが、これほど早く再開することになるとはハルトも思っておらず思わず驚いてしまう。
「さきほどまでいた巫女の休憩交代で入ったのですが、こうしてあなたに再び会えたなら交代して正解だったかもしれませんね」
「えっと、あの……」
綺麗な年上のお姉さんであるアウラにからかうように言われて、ハルトは思わず顔を赤くしてしまう。そんなハルトの様子を見てアウラは機嫌よさげに笑う。
「さぁ時間もありませんし始めましょうか。こちらのカードを持ってください」
そう言ってアウラが差し出したのは綺麗な装飾の施された一枚のカード。そのカードにはハルトの名前だけが書かれており、それ以外は何も書かれていなかった。
「そのカードをここに」
アウラの前に置いてある水晶の下に、ちょうどカードを差し込めるような場所が作られていた。ハルトは言われるままにカードをその場所に置く。
「このカードにあなたの『職業』が刻まれます。なくしても再発行はできますが、望ましくはないので大事にしてくださいね」
「はいわかりました」
「ふふ、いい返事です……それでは始めます」
スッと表情を引き締めたアウラが水晶に手をかざして天にいる職業神カミナへと祈りを捧げる。
『我らが神、職業神カミナよ。未来を照らす導をこの者に与えたまえ』
するとその瞬間、水晶が強い輝きを放ち始める。
「これは……!?」
その様子を見たアウラは目を丸くして驚く。
ハルトはといえば、わけもわからず目を白黒するしかない。
その光が収まったあと、ハルトの貰ったカードには短く、しかししっかりと書かれていた——《勇者》と。
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