第5話 王都へ

 『神宣』を受けるためには王都へ向かわなければいけないわけなのだが、リリア達の住んでいる街から王都までは近いわけではない。歩いて2日といった距離だ。ではどうやって王都へ向かうのかと言えば、それぞれの街に王都から派遣される《大魔法使い》達が魔法で王都へテレポートさせるのだ。


「毎年のことだけど、すごい人よね」

「今年は特にって感じじゃない?」

「オレらの時は逆に少なかったけどなぁ」


 王都へ向かうための門の近くには街中から集まった新成人で溢れかえっていた。誰もかれもが緊張と期待を滲ませた表情をしている。

 それはハルト達も同様だ。そんなハルト達を見て、二年前の自分達を見ているようだとリリア達はクスリと笑う。


「大丈夫よ。そんなに緊張することないから」

「そーそー。ドーンと構えときなさいドーンとね」

「わ、わかってるけど……」


 一年に一度しか開かない街の中央に置いてある門。その威容にハルト達は呑まれていたのだ。


「さぁ行きましょうか」


 いつまでもここにいるわけにはいかないとリリア達もテレポートを待つ人の列に並ぶ。一人、また一人とテレポートさせられていくなかリリア達の前に並んでいたシーラやシュウ達が先に王都へと向かう。

 いよいよリリア達の番というところでちらりと横を見ればガチガチに緊張したハルト。それを見てリリアはふっと表情を緩める。隣にいるハルトを安心させるためにリリアは言う。


「お姉ちゃんがついてるよ」

「……うん、そうだね」


 そしてリリア達は王都へ向かうための門をくぐった。





□■□■□■□■□■□■□■□■


 リリア達の住んでいる国『システィリア王国』は大きな大陸の西側に位置している。この世界に存在する五大国家の一つだ。

 それぞれの国の首都に大きな神殿が一つあり、そこが『神宣』を受けるための場所となる。この日だけは国同士のいざこざも起こらず、皆が『神宣』に集中するのだ。一日で膨大な人数の新成人を処理しなければいけない職業神カミナは忙しさのあまり下級天使達への愚痴が止まらなくなるのだが、それはヒトの知らない話だ。


「うわ、すごい人だね」

「そっかハルトは王都に来るの初めてだっけ」

「うん。でもそれは姉さんが連れてきてくれないから……」

「それはしょうがないじゃない。いいハル君。王都は危険な場所なの。ハル君みたいに可愛くて可愛くてしょうがないような子は気を抜いた瞬間にパクっと食べられちゃうんだから。ハル君を守るためにはこうするしかなかったのよ。ほら見て、今だって周りの人のハル君を見る目……まるで飢えた獣のような目、危ないわ」

「うーん……そうかなぁ」


(どっちかっていうと姉さんの方を見てるような気がするんだけど)


 そう思ったハルトの感覚は正しい。リリアは自らの様子が美しいということを自覚はしている。しかし、元男としての意識がまだ残っているからか自分が見られるとは考えていないのだ。だからこそ自分が見られているのではなくハルトが見られているのだという結論に達する。もちろんハルト自身も見られていないわけではないのだが。

 

「ほらハル君、はぐれないように手を繋ぎましょ」

「えぇ、恥ずかしいよ」

「そんなこと言ってられないでしょ」

「二人ともー! 何してるの!」

「早く行こうぜー!」


 いつまでもリリア達がやってこないことにしびれをきらしたシーラとシュウが大きな声で呼んでくる。


「ほら姉さん。みんな呼んでるし早く行こ」

「あ、ハル君……もう」


 これ幸いと先に進むハルト。リリアは若干不満そうな顔をしながらもしょうがないとハルトの後に続く。


「ここから神殿まではすぐだから早く行っちゃおっか」

「うぅいよいよなのね」

「ユナちゃん緊張してる?」

「ばっ、そ、そんなわけないでしょ!」


 フブキの言葉を顔を真っ赤にして否定するユナ。しかしその態度がユナが緊張しているということを表していた。


「なぁにユナ。あんた昨日の夜はあんなにイキってたのにいまさら緊張してんの?」

「う、うっさいな!」


 ニヤニヤと笑うシーラ。昨日の夜にユナは家族に対して調子のいいことばかり言っていたのだが、それを知っているシーラは今さら緊張し始めているユナのことをからかう。


「こっからはお姉ちゃん達ついて行けないけど、ユナちゃんは大丈夫でちゅか~?」

「~~~~~っ!! 大丈夫よ! ほら、ハルトもフブキも行くわよ!」


 顔を真っ赤にして怒りながらずんずんと神殿に向かっていくユナ。フブキもそれについて行く。


「あ、それじゃあ姉さん、行ってくるね」

「えぇ。ハル君に職業神の加護がありますように」


(ハル君を変な職業につけたらどうなるかわかってんだろうな職業神)


 と心の中で職業神を脅しつつ表面上は笑顔でハルトを送り出すリリア。この時、職業神カミナは急に謎の悪寒に襲われたとかなんとか。真相は職業神カミナだけが知っている。


「行ったわね」

「さっきはユナにあんなこと言ってたけど、実はシーラの方が緊張してんるじゃないの?」

「う、うるさいな。そんなことないから」

「ホントは一番心配してるくせに」

「そういうリリアはどうなのよ。ハルト君のこと心配じゃないの?」

「もちろん心配だけど。それ以上に信じてるもの。ハル君ならきっといい『職業』を貰ってくるわ。ユナ達もきっと大丈夫よ」

「……そうね。アタシが動揺しててもしょうがないし」

「あぁフブキー、大丈夫か。やっぱり無理言ってでもついて行ったほうがよかったんじゃ……でもそんなことしてフブキに嫌われたくないし……でも心配だし……うぅああああ!!」

「少なくとも、あそこで騒いでるバカみたいにはなりたくないわ」


 先ほどからウロウロと動き回って落ち着きのないシュウをジト目で睨みつけるシーラ。


「あぁ、んだと!」

「うっさいのよあんた! さっきから恥ずかしいでしょ。そういうの他所でやってくれる」

「心配することの何が悪いってんだよ!」

「男なら男らしくドンと構えときなさいよみっともない!」

「お前に関係ないだろうが!」

「なによ!」

「なんだよ!」


 再び喧嘩を始めるシーラとシュウ。そんな二人を見て呆れたようにため息を吐くリリア。しばらくは放置しておこうと決めたリリアはハルト達が行った神殿の方を見つめてポツリと呟く。


「ハル君が私みたいな変な『職業』につかないといいけど……」


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