第4話 幼なじみ達

「あぅ……まだ頭が痛いよぉ……」

 

 朝ごはんの並ぶ食卓にリリア達はいた。

 ズキズキと痛む頭を押さえながら恨みがましい目でマリナのことを見るリリア。


「自業自得でしょう。まったく、ハルトのこと起こしに行くといつもあぁなんだから。いっそ私が起こしにいったほうが」

「それはダメ! ハル君起こすのは私の役割なんだから」

「そういうなら今度からはちゃんと、普通に、起こしなさい」


 呆れたように言うマリナ。今日の朝のようなことは何もこれが初めてではない。むしろいつものことだ。だからこそマリナは呆れているのだ。注意されたリリアはプイとそっぽを向いて聞こえないふりだ。

 そんな様子を見ていたハルトは苦笑するしかない。 


「あはは……」

「ハルトも、いつまでもリリアに起こされてないでちゃんと自分で起きれるようにならないとダメよ。もう十五歳なんだから」

「う、はーい」

「それじゃあハルトは早くご飯食べて。もうすぐ時間でしょう」

「あ、そうだった」

「ホントにこの子たちは……大丈夫かしら」

「大丈夫よお母さん。今日は私もついて行くんだし」

「だから余計に心配なんだけどね。私とルークに仕事がなかったら一緒に行くんだけど……」

「大丈夫だよ母さん。王都に行くだけなんだし」

「そうね。それじゃあリリア。ハルトのことよろしくね」

「はーい」

「それじゃあ私も行ってくるわね。ハルト、いい『職業』が貰えるように祈ってるわ」

「うん、ありがとう母さん」


 フフっと笑ってハルトの頭を撫でてから家を出て行くマリナ。残されるのはハルトとリリアの二人だけ。リリアからの視線を感じたハルトがそちらの方を見るとジト目で見つめられていた。


「ど、どうしたの?」

「ズルい……」

「え?」

「ズルいズルい! 私だってハル君の頭撫でたい!」


 言うやいなやリリアがわしゃわしゃと頭を撫でられるハルト。反抗しても意味がないことを知っているハルトはされるがままだ。それはリリアが満足するまで続いたのだった。


「もう用意はできてるの?」


 思う存分にハルトの頭を撫で満足したリリアがハルトに問いかける。


「うん。昨日のうちに用意しといたよ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ボクももう十五歳なんだから」

「うーん、そうなんだけどぉ」


 この世界では十五歳で成人を迎える。十五歳で大人になるわけなのだが、リリアには地球での記憶がある。なので十五歳というとまだまだ子供のように思えてしょうがないのだ。


「大丈夫。もう時間だから行かないと」

「あ、ホント。急ぎましょうか」


 今日はハルトにとってとても大事な日なのだ。それに遅れるわけにはいかないとリリアも急いで用意を始める。

 何があるのかというのは言ってしまえば単純で、今日はハルトに職業が与えられる日——『神宣』が行われる日なのだ。







□■□■□■□■□■□■□■□■


『神宣』。それは一年に一度、成人を迎えた者に職業神であるカミナから『職業』が与えられる日だ。これによってその人の人生が決まると言っても過言ではない。だからこそ、新成人となった人は皆今日という日を心待ちにし、また緊張するのだ。

 そして、今年成人を迎えたハルトも『神宣』を受ける日なのだ。

 家を出た二人は町の集合場所まで向かう。


「おはよーリリア。それにハルト君も」

「おはようシーラ」

「おはようございます」


 集合場所についた二人を待っていたのは少し派手目な女の子だった。名前はシーラ。リリアの幼なじみの一人だ。シーラの妹であるユナが成人を迎えたので一緒に行くことになっていたのだ。


「今日いい天気でよかったね」

「そうね。ハル君が『神宣』を受けるには絶好の日だわ」

「はは、リリアってばいっつもハルト君のことばっかりだね」

「ユナもおはよう」

「……お、おはようございます」


 リリアに挨拶されたユナはシーラの背に隠れるようにして姿を隠す。ユナは別に引っ込み思案というわけではない。ただ単にリリアのことが苦手なだけである。その原因は昔ハルトをからかったことにあるのだが、それが原因でどうなったのかは想像にお任せする。

 

「あぁもう。ユナいつもそうやってアタシの後ろに隠れないで。いい加減慣れなさいって」

「む、無理。怖いもん」

「本人を前に言うなんて度胸あるわね」

「ひぃいいい!! ごめんなさいごめんなさい!」


 顔を真っ青にして謝るユナ。もちろんリリアも本気で言っているわけではない。ただ少しからかっただけだ。それでもユナには効果抜群なのだが。


「後来てないのは……シュウの所だけね」

「あいつら……まさかまた寝坊してるんじゃ——」

「寝坊なんかしてねーっつの!!」

「みんなおはー」


 シーラの声を遮るように大きな声が割って入る。その声の方を見れば、いたのはいかにも普通、といった様子の男の子と傍らの女の子。今まさに話に出ていたシュウとその妹のフブキである。


「じゃあもっと早く来いっつーの!」

「うるせぇ。しょうがないだろ。フブキがいつまでものんびり朝ごはん食べてるんだから」

「フブキちゃんのせいにしてんじゃないわよ!」

「じゃあどうしろってんだよ!」

「あぁもう。やめなさい二人とも」


 ガルルルルと、額をぶつけんばかりの勢いで睨みつけ合うシーラとシュウ。そしてそれを止めようとするリリア。いつもの光景だ。

 この二人は昔からこうで、会うたびに必ずと言っていいほど喧嘩している。そのためリリア達はもう慣れっこだ。

 そんな兄姉達をよそにハルト達は挨拶を交わす。


「ハルト君もおはよー」

「おはよう。相変わらず眠そうだね」

「睡眠、大事だよー。寝る子は育つらしいからさ」

「だからってあんたは寝過ぎよ。シャキッとしなさい。私達もう大人なんだから」

「そう言われてもねー。実感が湧かないっていうか。ねぇ?」

「え、うん。ボクもそうかな。大人になったって言われても何かが変わったわけじゃないしね」

「まったくあんた達は……そんなんで今日の《神宣》大丈夫なの?」

「まぁなるようにしかならないよーきっと」

「できればいい『職業』につきたいと思うけど。こればっかりは神様次第だしね」

「うぅ、まぁそうなんだけどさぁ」


 たとえどれだけ気合いがあったとしてもつく『職業』は決められない。だったら普通にしているのが一番だとハルトとフブキは思っている。


「あんたのお姉さんもあんだけ完璧超人なのに《村人》なんだもんね」

「……うん」


 二年前にシーラ達と共に『神宣』を受けたリリア。そうしてついた職業は《村人》だった。これには町中の人が驚いた。あれだけ才気あふれるリリアがただの《村人》に選ばれるとは誰も思っていなかったのだ。

 《村人》は下級職業と言われるものに分類される。できることといえば食堂の給仕や冒険者ギルドの職員などだ。リリアも家の近くにある食堂で給仕の仕事をしている。

 ちなみに、シーラは《料理人》としてリリアと同じ食堂で働いて、シュウは《騎士》として町の警備隊に所属している。


「ま、私も変な『職業』じゃなかったらなんでもいいけどね」

「そうだね」


 それぞれがどうなるだろうかと《神宣》のことを考えていると、リリアの怒声が響く。


「あぁもう……いい加減にしてっ!」

「「いたっ!!」」


 ハルト達が視線を向けると拳を握ったリリアと頭を押さえてうずくまるシーラとシュウの姿。これもまたいつものことだ。


「時間が無くなるでしょう」

「だってシュウが!」

「シーラが!」

「もう一発……いく?」


 なおも言い募ろうとする二人に拳を見せるリリア。


「「アタシ (俺)達仲良しです!」」

「そう。ならいいんだけど。ごめんね三人とも。待たせちゃって。さぁ行きましょうか」


 そしてリリア達は《神宣》を受けるために王都の神殿へと向かうのだった。



 

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