番外編2


「むぅ〜〜」



とある日また神崎達のパン屋に顔を出すと神崎が両手で頬っぺたを押しながらの変顔をして唸っている。



「ねえ莉亜」

「ふぁい」

「清っち見てるけど?」

「ふぁッ!? あわわわッ、いらしてたんですか? …… なんで急に来るんですか!!」

「それを言うならなんでそんな変顔してるんだ?」

「だよね、あたしもそう思ってた」

「普段から難しい顔してるんだから小ジワ増えるよ〜」

「莉亜ちゃんいつもいじられて大変ね、ふふふ」



なんでも味で勝負したいのに神崎、それに日向や篠原、弥生目当な客も沢山居て大忙しなようだ。 



ある意味そいつらも店に貢献してくれているから全然いいじゃないか、寧ろ贅沢な悩みだと思うんだが真面目な神崎には不純な動機に思えてしまうらしい。



と言うより…… おい、弥生は既に俺の奥さんなんだがそんな連中に色眼鏡で見られるとちょっとアレだぞ。



「ほんと莉亜は頭硬いよねぇ、臨機応変に行かなきゃ」

「楽して儲けられるんだから彩の言う通り」

「そんな身も蓋もない…… というか! そんな身売りしているような人気の出方じゃ長続きしません!!」

「ああ、でもここのパン意外と美味しいってゆいちゃん言ってたわよ?」

「い、意外とはどういうことでしょう?」



弥生…… いや、如月が言ってた意外ということでパンはついでみたいな感じに受け取ったのか神崎は力なく机に頭を落とした。



実際こいつらの店のパン美味しいんだけどな。



「まったくしょうがないなぁ莉亜は。 今のうちに稼いどいてゆくゆくは私らのスキルもレベルアップ的な感じでいいじゃん?」

「清人もそのうちここに来てくれるんだもんね」

「女の園に清っちひとり…… 何かが起こる予感しかしない!」

「彩奈、それは考えないようにしているのですから余計な悩みを増やすような発言はやめて下さい! 弥生さんも居るんですしそんなわけないでしょう」

「そうかな?」



日向が神崎の言う事に疑問符を投げ掛ける。 神崎の言う通りそういうのやめてくれ……



「でも清人はあなた達3人と住んでたわけだし概ね大丈夫なんじゃないかしら?」

「いろいろあったけどね、ね? 清っち! あれはそうだなぁ、莉亜がまた清っちの事で大騒ぎした日の事……」



篠原が何やら回想を始めてしまった。 



なんだ一体!? でもなんか思い当たる節がある。 いや結構あってどれの事なんだか?! マズい話じゃないよな? な!?






◇◇◇






それは神崎達3人が休日の土曜日、俺達は夕飯を食べ終えて風呂にも入り夜の時間を過ごしていた。 俺は映画を観ていて時計を見るともう午前1時を過ぎていた。 



見終わったしそろそろ寝るか、朝は神崎の朝食の当番だし遅れると「寝坊ですか? 休みだからと言って生活習慣を乱すなんてうんたらかんたら」と小言を言われかねないしな。



そして朝、部屋のドアが開く音で目が覚める。



日向が起こしに来てくれたのかな? と思って半分起き上がり見ると神崎だった。



「はぁ、まだ寝てたのですか? いつまで経ってもいらっしゃらないからそうだとは思いましたが柳瀬さん! あなたは社会人ですのに麻里と同じでいつまでもいつまでも寝ててって…… え?」



神崎は途中で話すのをやめてサーッと顔色が青くなって絶句している。



そんな神崎の様子に俺は自分の顔をとりあえず触って何かを確かめるけど何も付いていない。



「や、柳瀬さん……」

「は、はい……」

「なんですか…… それは?」



ん? 神崎の指差す方を確認すると布団のお腹の辺りに女物のパンツが1枚無造作に置かれている。



「なッ!? な、ななな、なんだこれ!!」



俺はようやくマズい事態に気付いた。 嘘だろ?と思いなんとなくそのパンツの端を手に取ると……



「きゃああああッ!! 触らないで!」

「え、えッ!?」

「それは私の下着です!!」

「は!?」



頭が混乱していると神崎が俺に突進して来て俺の手からパンツを奪い取ろうとる。



「え? ぬ、濡れてる?? なぜ?」

「濡れてる!? な、なんでッ!!?」

「なんで!? なんでとはなんですか? あなたがそれを言いますか!! わ、私の下着で一体何をしたんですか!!」

「ちょ……」



テンパってたのでそのパンツに手を伸ばすと神崎にバシッと手を叩かれる。



「今度は何をする気ですか!? け、汚らわしい!!」

「お、落ち着けって! 大体お前のパンツなんかで俺が何かすると思うか?」

「そ、それは私なんか柳瀬さんにとってなんの魅力もないって言いたいのですか!?」

「ああもう、そういう事じゃなくって……」



どうしよう、神崎めっちゃ興奮して俺が身に覚えないって言っても聞いてくれそうにない。 すると……



「朝からうるさい莉亜」



寝ぼけ眼で寝癖の付いた日向が目を擦りながら俺の部屋に入ってきた。



「ま、麻里…… 」

「んあ…… おはよー清人」

「ダ、ダメです麻里!!」

「へ?」



神崎が俺に近付こうとした日向を引き離す。



「何するの莉亜?」

「言いたくはないですが…… や、柳瀬さんは変態です!!」

「?? そんなの知ってるよ?」

「いやそこは否定しろよッ!」

「柳瀬さんは黙ってて下さい! いいですか麻里、柳瀬さんはかくかくしかじか……」



日向に事情を説明し出す神崎とそれを俺を見ながらボーッと聞く日向。



「と言うわけです!」

「マジか!? ついにやったね清っち!!」

「彩奈いつのまに?」

「あんたのバカデカい声聞いたらそりゃあね、でもまぁ清っち証拠隠滅怠るとは甘いなぁ」

「そ、そういう問題ではありません! 柳瀬さんが私の下着でいかがわしい事をしたというのが大問題なんです!」

「だから決めつけんなっての!」



ヤバい、大騒ぎだこれ……



そんな中日向は神崎の手からパンツを取った。



「ま、麻里??」

「清人は何も悪くないよ」

「「え?」」



日向は怠そうだけど続けた。



「そのパンツあたしが履いてたの、纏めて洗濯しようとためてたら履くパンツなくなってて。 彩のパンツは悪趣味だから莉亜のパンツ借りた。 莉亜その時居なかったから後で言おうとしたら忘れてた」

「は、はぁ? 麻里が私の下着を…… それでですか、私の下着が足りないと思ってたのですが」



まさかそれも俺を怪しんでたんじゃないだろうな?



「それで夜中に清人の部屋に行って添い寝しようとしてベッドの前に座ったらテーブルにあったコップ落としたら飲み物お股に掛かってそのまま清人の部屋でパンツとズボン脱いじゃった。 ほらそこに」

「「あ……」」



日向の言う方を見ると確かに日向のらしきズボンが…… ここで脱いでんじゃねぇよ! 俺が起きたらどうするつもりだったんだ!? あ、日向の事だからなんて事ないのかも。



「ねぇそれより代わりのパンツ貸してよ莉亜」

「え? 麻里ノーパン? スースーしないの?」

「する」

「つーか私のパンツ悪趣味とか言ってんじゃないわよ」

「…… オホン! 仕方ないですねぇまったく。 そういう事はちゃんと忘れずに私に言って下さいね麻里」

「おい」



この野郎人を変態呼ばわりしといて。



「エホンゴホン! 柳瀬さん、朝食後には美味しいコーヒーとお菓子でも出すので日頃の疲れをしっかりとって下さい、では〜」

「早ッ! 逃げられちゃったね清っち」

「朝からとんでもなく疲れた」







◇◇◇







「なんて事もあったよね!」

「うう…… ありましたねそんな事も」

「大変だったね清人」

「お前のおかげでな!」

「へぇ〜面白いね、もっと聞かせてくれる彩奈ちゃん」

「まだまだありますよぉー、後は……」

「勘弁してくれ!」



その後は俺??がやらかした、いや冤罪なんだけどその話で盛り上がっていた。

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