第145話


「お待たせ柳瀬君、いきなりどうしたの? 何かあった?」

「はい」

「ん、んん? 柳瀬君少し落ち着いたら?」



ソワソワしている俺を見て先輩はここじゃあなんだからとカフェの中へと促した。



うあ…… 早く言わないと。



テーブル席について窓際の席に座った。 前に神崎達が座った席じゃんここ。



「柳瀬君何か食べる? 私はカプチーノとガトーショコラにしようかな」

「ええと俺はホットミルクで」

「それだけでいいの? じゃあ私のガトーショコラ半分あげるね」

「先輩、お、おにぇッ」



…… 噛んでしまった。 気持ちが先走ってしまう。 先輩を見ればそんな俺にクスクスと笑っている。



「ごめんごめん。 ほら柳瀬君、外を見てごらんよ?」

「え?」

「今日はなんだか夕焼けがとっても綺麗だよ」

「あ、本当だ」



それは何気ない先輩からしてもなんか焦ってる俺を落ち着かせようとしたどうでもいい話題だっただろう。



だけど俺の中では日向もこんな空を見ながら帰ったのかなとか神崎と篠原は今頃何してるんだろうとか頭に過った。 



俺は何のために先輩を呼び出したんだ? そうだ、しっかりしろ俺。 ちゃんと先輩に気持ちを伝えるんだ、焦ってばかりいないで少し頭を冷やせよ。



「先輩、俺大事な話があります」

「うん」



先輩が頷いた時注文していたメニューが来た。 大事な話の前に来て良かった……



「美味しい。 柳瀬君も食べて」

「いただきます。 あ、本当ですね」



食べてからって事なのかな? 



そのままケーキを食べ終わるまで特に会話もなく静かに食べた。 



「それで…… 話なんですけど」

「あ、うん。 ごめんね話があったのに私が話の腰折っちゃって」

「いえ。 先輩のおかげで落ち着けましたし」



俺は静かに息を吸って覚悟を決めた。 お互い両想いだったってのにまた告白するのってなんだか緊張する。



「先輩! 俺と正式にお付き合いして下さい」



そう言って頭を深々と下げて先輩の反応を待っているんだけど何もない。 あれ? と思ってそっと頭を上げてみると先輩は顔を両手で覆っていた。



「先輩…… ?」

「う、あ…… ご、ごめん、私てっきり柳瀬君にフラれるかもって思ってたから…… ビックリして、それとあんまり嬉しくてごめん! あ! ごめんってのはそういう意味じゃなくて」

「ええと、先輩も少し落ち着きましょう? あはは」

「そ、そうだね!」



先輩はカプチーノをグイッと飲んで溜め息を吐いた。



「あの…… 柳瀬君。 凄く凄く嬉しいんだけど本当に私でいいの?」

「え?」

「私はあの子達からしてみたら年増だし…… 魅力とかもあの子達には敵わないなって思ってたの、だけどそんな私を柳瀬君は前にも好きって言ってくれたよね? 麻里ちゃんみたいな可愛い子からも本当に好かれてたし。 あの時も凄く嬉しかったけど怖かったの、私を好きでもいつか柳瀬君はあの子達の方に行っちゃうじゃないかって。 それであんなややこしい事提案しちゃって…… それって私を好きって言った柳瀬君を信じてなかったって事になる。 今だってこんな事言ってて確かめるような事してる、そんな私を……」

「好きです先輩」

「え?」



先輩がどんな風に思おうともう関係なかった。 どんな俺も好きって言ってくれた日向と同じように俺だってそんな先輩でも好きなんだ。 だから……



「好きです。 先輩が前に神崎の事で居なくなった時も十分痛感させられました、俺は先輩が1番好きなんだってのを、先輩しかいないって事を。 あいつらの事も好きです、でもそれは先輩とは違う意味だっていう事にもハッキリしました。 俺が将来一緒になりたいのは先輩です」

「や、柳瀬君!」

「はい?」

「そんな風に言われたら…… 私だって柳瀬君しかいない。 好きよ柳瀬君、私で良かったらよろしくお願いします」



俺はこの日先輩と恋人同士になった。 かなり遠回りしたけどお互いの気持ちをきちんとわかりあったと思う。



「柳瀬さんおかえりなさい。 その…… どうでした?」



玄関に入る前に神崎がキッチンに居たようで俺を見掛け声を掛けてきた。 篠原も居てひょっこりと顔を出した。



「ああ、上手く行ったよ。 なんていうかその……」

「もぉー、歯切れ悪いわねぇ! 清っちはなんだかんだで一途に弥生さんの事好きだったって事でしょ? 上手く行ったんなら胸張りなさいよ」

「…… うん、ありがとな」

「でも油断大敵だからね! 隙があったら容赦しないから!」

「お、おう」

「柳瀬さん、私も彩奈と同じ気持ちですがとりあえずおめでとうございます」

「神崎もありがとな」



そして玄関に入り日向の部屋のドアをノックした。



「日向入っていいか?」

「うん」



部屋に入ると日向は布団にくるまっていいた。



「どうだった?」

「俺と先輩付き合う事になったよ」

「そう…… 」



聞くと日向は顔を下に向けたので俺は日向の隣に座った。 



「あたし…… あたしにはあの人の気持ちなんて関係ないから。 あたしはただ清人が好き、だから遠慮する気ない…… って言ったらあたしの事嫌いになる?」

「いいや」

「別れたら嬉しいって思ってたら?」

「いいや」

「じゃ、じゃあ……」

「お前を嫌いになんてなるはずないだろ? 神崎みたいな事言うけど家族みたいに思ってるし俺だって日向の事好きなんだしさ」

「…… ややこしい好きでよくわかんない」



でもそれを聞いて日向は顔を上げた。



「これも言いたくないけど…… そんな風に思ってるんだったら」

「うん?」



もぞもぞと布団から出てきた日向は俺を押し倒して抱きしめた。



「良かったね清人、おめでと」


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