第141話


「柳瀬さんも年末になってようやくお休みになりましたね」

「結構休んでたから年末なんてあっという間でしょ? 清っちは」

「ぐ…… 嫌なところつっこむなよ」

「休んでたならあたしに言えば一緒に居てあげたのに」

「それはそれで学業が疎かになります、いいですか? 2月には入試があるんですよ? 麻里はちゃんと安全圏に入れるまでみっちり私が付き添います!」

「うげぇー……」

「あらぁー? 前回のテストの成績は私に負けたくせに大丈夫なのかなぁ?」

「うう…… いろいろありましたからね、ですが入試では負けません!」



前回の一位はなんと篠原だったからな。 いろいろあったとはいえ篠原のポテンシャルは凄いな、というか神崎や篠原だったら推薦で行けると思うけど日向に付き合うとかってやっぱりなんだかんだで仲良いよな。 



「ぷぷぷッ、それでも清っちのベッドに潜り込んでたあんたを思い出すと」

「か、関係ないでしょう!? やめてくださーい!」



顔をボッと赤くさせて神崎は篠原をユサユサと揺らした。 んー、成り行きでああなったけど



「莉亜が薄々清人の事好きになってるって気付いてたけど素直になれなかったんだもんね?」

「な…… ななッ! 素直!? 麻里にだけは言われたくありません!」

「あたしは清人には素直だもん」

「あははッ! 確かに清っちにだけは素直だよねぇ。 そんな素直な麻里や私や莉亜の事いつまで待たせる気かなぁ? そろそろ高校も卒業だし区切りとして清っちには私らか弥生さん誰が本当に好きなのか聞きたいなぁ」

「あ、彩奈! 何を言ってるんです!?」

「えー? だってちょうどいいと思わない?」

「確かに…… 彩の言う通りかも」

「麻里まで……」



日向や篠原の気持ちはもっともだ。 俺だけ誰にも答えてない、先輩には好きと告げたけどこの状況を見越した先輩があってなかった事にした、それは俺がハッキリしてなかったからだ。



「そうだな……」

「ええ!? 柳瀬さん?」

「わかってるよ神崎。 でもお前ら今大事な時だろ? 俺が偉そうに言えた事じゃないけどさ。 だから入試の後でもいいかな?」

「…… うん」

「そうだねぇ、わかった!」

「どうだ? 神崎」

「は、はい。 それでしたら」



そして大晦日になり今年も終わった。 あっという間っていうよりかなりいろいろあった1年だったな、一時はどうなる事かと思ったよ。 社会人として終わる一歩手前まで行ったからな。



「清人あけましておめでとう。 ふあーッ」

「あけましておめでとう、眠そうだな?」

「うん、でもお正月だし」

「あけおめことよろ!」

「あけましておめでとうございます柳瀬さん、今年もよろしくお願いします」

「ああ、あけましておめでとう。 今年もよろしくな、神崎、篠原」

「いやー、いろいろあった1年だったねぇ。 私らも合格出来ればまたみんなで一緒だね!」

「合格出来るに決まってます、私や彩奈、柳瀬さんがついているんですから麻里もきっと受かりますよ、変な事言わないで下さい」

「あはは、ごめんごめん」



そうだ、とにかく今はこいつら3人しっかり大学に入る事のが重要だ。 



「ん? なに?」

「日向、勉強するか?」

「え? お正月になったばかり…… ううん、やろうかなぁ」

「あー、清っち独り占めにするチャンスだと思ったでしょー?」

「麻里はちゃんとやる気ですよ、私がお付き合いしましょうか?」

「遠慮しとく」

「あーん……」



そうして日向の勉強に付き合っているといつの間にか寝ていたのか朝方になっていた。 



テーブルに座って寝ちまった。 そのせいか背中が重い…… ん? 重いわけないよなと思うと日向が俺の背中に重なるようにして寝ていた。



つーか毛布を掛けてくれたのか。 日向を揺さぶってみるが起きないのでベッドに運び毛布と布団を掛けてやると潜っていった。



部屋から出ると朝方と言ってもまだ薄暗いので俺もひと眠りしようかな。



「あら、柳瀬さん? お早いですね」

「お前もな」



声の方を見ると洗面所に神崎の姿があった。



「なんだか今までの事振り返るとあっという間だったように思えて。 寝ている時間がもったいなくて」

「あっという間か。 神崎達はこれからだろ? まだまだ腐るほど時間はあるよ。 て言っても俺もあっという間に感じたけどな」

「なんですかそれ? 言ってる意味がんかりません」



クスッと笑って神崎は俺の前に来るとタオルを渡された。



「何これ?」

「あ…… え? 起きたのですから顔を洗うのかと思って」



ああ、こいつなりに…… 渡そうとしていたタオルを引っ込めようとしたのですかさず受け取った。



「サンキュー」

「ど、どういたしまして…… 」

「え? まだ何か?」

「いえ、特に何も」



と言いながらなんか言いたげに見てこられると何もないようには見えないんだけど?



「…………」

「あ、そうです! 起きたんですしコーヒーでも飲みませんか? 飲みますよね?」

「唐突だな、でもそうだなぁ。 うん、いいかも」



玄関を開けると冷たい風が入ってきた、廊下も寒かったけど外はもっと寒い。



「寒くありませんか? 柳瀬さん靴下履いてないじゃないですか」

「ちょっとの距離だしまぁいいかって思って」

「見てるだけで寒そうです……」



キッチンへ着き神崎はソワソワしている。 なんか落ち着きないなぁと思いながら見ているとコーヒーをこちらに持って来たが躓きそうになり溢れる前に神崎を支えた。 なんかあると思った……



「ご、ごめんなさい!」

「いいって。 危なかったな、少し落ち着けよ?」

「…… 柳瀬さんは落ち着いてますよね。 どうしてですか?」

「どうしてって。 んー……」

「私は落ち着きません、柳瀬さんに…… キ、キスした時から。 なのに柳瀬さんは落ち着いてます、私ばっかり! 柳瀬さんにとって私は相応しくないのかもしれませんが私は、私は柳瀬さんをす、すす、好きなんです! 重いってわかってます、私の家柄で柳瀬さんに怖い思いをさせたりたくさん心配を掛けました。 でも…… あ、あれ? 私何が言いんたいんだろう? あれ?」



神崎はだんだんしどろもどろになってきた。 なおもあたふたする神崎は急にガクッと肩が下がりシュンとした。



「ごめんなさい、自分がよくわかりません……」

「俺さ、神崎のそういうとこ結構好きだよ」

「へ?」

「なんに対してもバカみたいに一生懸命でさ、俺にはそういうのないなって」

「バカはいりません……」

「ごめんな。 俺も好きだよ神崎の事、だから真剣に考えてる。 まぁそりゃ怖い目にもあったけどさ、そんな事どうでもいいんだ、それで重いとか思ってたらもう俺とっくにここから居なくなってるよ。 キツかった時も神崎や日向、篠原と俺が離れたくなかったから俺はここに居たんだ、だから俺はちゃんと向き合うよ、お前らの事大好きだからさ」

「柳瀬さん……」



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