第140話
クリスマスイヴの日の夜も更け先輩も帰りみんな寝静まった頃だった。
部屋のドアが開いた後で目を覚ました。 また日向かもしかしたら篠原かもしれないと思い気付かれないように薄目で見ていた、だけどそこに居たのは神崎だった。
「柳瀬さん起きてますか?」
神崎は呟くように言った、薄目で見ていたので今更起きているなんて言えないのでスルーする。
「寝ているならそれでいいです」
眼鏡を外してゆっくりと俺の近くへ寄って来たので俺は目を閉じた。
「寝てるフリでも構いません、寧ろ恥ずかしいので」
そう言うと神崎の匂いがフワッと香る。
これは俺にめちゃくちゃ近い!? 神崎の息遣いを感じるほどだった。 またそっと目を薄く開くと俺の唇に神崎の唇が触れた瞬間だった。
え!? 神崎が俺にキス……
神崎の唇が離れたので俺はまた目を閉じた。 そして俺の狸寝入りに気付いているのかいないのか神崎はまた静かに喋り出した。
「私は意気地なしです。 イヴの日だからと1年に1回だからと柳瀬さんが寝てるからと、こういう理由がなければこんな事も出来ません。 柳瀬さんはもう心に決めた人がいるのもわかっていて…… 遅過ぎますよね、困りますよね? でも私だって柳瀬さんとキスとか恋人のような事少しでも出来たらなって。 私柳瀬さんを好きになって良かったです、後悔なんてありません。 では……」
神崎が出て行こうとした時思った。
意気地がないのは俺の方じゃないのか? あの恥ずかしがり屋の神崎がこんな事してるってのに俺は寝たフリか?
「神崎!」
「うあッ!!」
俺が後ろから呼び止めると神崎の肩がビクッと跳ね上がった。
「あはは…… 流石に起きちゃいましたか。 あ、えっと、これは不法侵入ではなくてその入る部屋を間違えた? じゃなくて」
「全部聞いてた」
「え? 全部? や、やっぱり寝たフリだったんですね!? というか恥ずかし過ぎます、穴があったら入りたいです……」
「あのさ、俺」
「わかってます、でも聞いてたなら私の気持ちわかりましたよね? なのでこれは私のワガママなんですけどもう少し、もう少しだけこのままでいてもらえないでしょうか? お願いします!」
「え? このままで?」
「ダメですよね…… 私の勝手な都合なんですから」
神崎はシュンとしてしまった。 …… まぁいいか、神崎がこんな事言うなんて滅多にないし今までを考えると神崎の言う事は少しでも叶えてやれたらなって思ってるし万が一受験にでも響いたら大変だしな。
「わかったよ」
「柳瀬さん!」
パアアッと神崎の表情が明るくなり両手を広げて変なポーズで止まった。
「それ笑わせにきてんのか?」
「うぐッ…… 決してそんな事は」
暗くても真っ赤になってるのがわかる。 恋人みたいな事がしたいって言ってたもんなこいつ。 ひょっとして……
いまだに不気味な機械のような神崎に近付いてそっと抱きしめてみた。
「ひあッ! な、何を!?」
「いや、こうしたいのかなって思って。 違った?」
「ち、違ッ…… くありません」
ぎこちなかった神崎の腕が力なく落ちると俺の背中に腕を回して服をギュッと握った。
「柳瀬さん恥ずかしくないんですか? よくこんな事出来ますね……」
「恥ずかしいに決まってんだろ、それにお前が恥ずかしい恥ずかしい言ってるとこっちも恥ずかしくなってくるだろ?」
「ごめんなさい。 恥ずかしいけど凄く安心します」
背中の辺りの服をギュッと握りしめていた手は俺の背中を触る形に変わっていた。
急にバタンとドアが開く音がして神崎は俺から離れた。
「だ、誰でしょう!?」
「日向か篠原に決まってんだろ? トイレにでも行きたくなった…… とか?」
「その割には足音がこちらに近付いているような気がしませんか?」
「確かに…… 寝よう」
「え!? わ、私は?」
「どっかに隠れろ!」
つってもこの部屋隠れるとこないし……
神崎もそれを察したのか俺のベッドに潜り込んできた。
「何やってんだ!? お前こんなとこ見られたら恥ずかしいどころじゃないだろ!」
「あ…… いやそうなんですが今更出て行くわけにもいかずここしかないじゃないですか!?」
そんな事を言っているうちに部屋のドアが開いた。
「清人…… 」
日向かよ? ヤバい……
「寝てる?」
「う…… ん? 日向か?」
「起こした? ごめん」
「いや起きるってドアが開いたら。 で、なんか用か?」
「別に用って事はないけど…… 虫の知らせ? 誰か居た?」
「な、なぜ?」
「莉亜の体臭? がする」
「私そんな臭くありません!」
俺の布団の中に隠れていた神崎がその言葉に反応した。 バカだ……
「あ……」
「やっぱり。 莉亜臭いと思った」
「だから臭くありません! 毎日お風呂に入ってます!」
「それはそうと…… 何してるの?」
「ひいッ、こ、これには深い理由があって。 柳瀬さん!」
俺に振られても……
「清人何してたの?」
どうしようもないので洗いざらい白状したら日向はクスリと笑って一緒に寝ようと言った。 そして朝になり狭くて寝苦しくて目が覚めると篠原が上に乗っかっていた。
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