第138話


あれから神崎家の車で家に帰された。 無事に戻って来れた、一時はもうここに戻る事はないかもしれないとか思ってたからな。



「あれ? まだ誰も帰って来てないのか」

「もう少ししたら帰ってくるとは思いますけどね」

「そっか。 にしてもすげぇ疲れたわ精神的にも」

「私の父のせいですよね。 私の事もあると思いますがすみませんでした」



神崎は深々と俺に頭を下げた。



「いいって。 俺も黙ってて悪かったしさ」

「そうです、それは悪いです。 今後何かあったらすぐに相談して下さいね? 力になれるならなりたいですし」

「あれ? そういえばお前の父さんにお前が言ってた事ってどういう根拠があって取り返すって言ってたんだ?」

「あ! ええと…… それはですね」



聞くとなんだか神崎はモジモジとし始める。



「まさかノープランであんな事言ったのか?」

「い、いえ! そんなわけありません、すぐにとは行きそうにないし勢いで言ったのは事実ですけど。 笑わないで下さいね? 私大学を卒業したらパン屋をしたいなって思ったんです。 料理は元々好きでしたしお爺様とお婆様も美味しいって言ってくれて…… お世辞かもしれませんがその時やりたいなって。 おかしいでしょうか?」

「え? 全然。 そっか、いい目標じゃん」

「それで…… 柳瀬さんが行くところがなくて困っているならそれが叶ったら私のところで働いてもらいたいなって。 って柳瀬さんの意思もありますし柳瀬さんはめでたく仕事にも戻る事も出来ましたし私の勝手な考えですよね」



そうか、まだまだ時間は掛かりそうだけど神崎はそこまで考えてくれたのか。 けどな神崎、それは……



「ただいまー!」



玄関が開いたと同時に篠原の声が聞こえた。 どうやら帰って来たらしい。



「あ、2人とも帰ってきたみたいですね? 行きましょう柳瀬さん」

「え?」

「ちゃんと話さなきゃダメです! 麻里も彩奈も気になってたんですから」

「そうだな」



俺は日向と篠原に今までの経緯を話した。 すると日向に思いっ切り背中を叩かれて篠原からはゲンコツを食らった。



「な、何すんだよ!」

「そんな大事な事…… なんであたしに黙ってたの? 話して欲しかった」

「左に同じく。 なんとなく変だとは思ってたけど酷いじゃん清っち。 私らこんなに清っちの側にいるのにさ!」

「ま、まぁ落ち着いて聞いて下さい、柳瀬さんが今まで言えなかったのは、ふえ!? いったーい!!」



神崎も俺と同様に日向の張り手とゲンコツを受けた。



「わ、私にまで何するんですか!?」

「なんかムカついた」

「左に同じ。 まぁでも解決したんでしょ? もうやましい事何もないよね?」

「ああ、後はもう大丈夫だと思う」



次の日になり俺は会社に久し振りに出社する事になる。 なんか初出勤並みに緊張するな。



「清人緊張してるの?」

「なんせ久し振りだからな」

「食が進んでないですなぁ。 というか私達を騙して仕事行ってるフリしてたんだよね? その間に誰か他の女の子引っ掛けてたとかしてないでしょうねぇ?」

「そんな余裕あるかよ? 仕事探すので大変だったんだぞ」

「不安ならあたしが一緒に行ってあげようか? 前も行った事あるし」

「そっちのがいろいろと厄介だろ……」

「ほらほら、2人とも時間がそんなにないのに無駄話してないで食べて下さい」



そして会社に行くと社長にすぐに呼び出された。



「柳瀬君…… 一体何をした?」

「え? 今日から普通に来てもいいよと……」



あ、神崎のおじいちゃんから言われたんであって会社からは何も言われてねぇ……



「すいません! 連絡もなしに来てしまいました…… あのー、俺のやる事ってありますかね?」

「ああいや、それはいいんだが今度は柳瀬君を戻して給料を倍にしろと圧力を掛けられてるんだが……」

「ええ…… 」



神崎のおじいちゃんだな。 でもそれは普通に嬉しい。 俺の生活もそれで少しは潤うと思うし脅迫されたお詫びって事にしておこう。



社長から出ると先輩と如月が駆け付けてくれた。



「戻って来たばっかりで社長に呼ばれるなんてまた変な事にならなかった?」

「そうですよー? 柳瀬先輩ったらなにかしらトラブル起こすんですから」

「如月に言われたくないわ! って俺が居ない間しっかりやってくれてたんだってな。 ありがとな」

「へ? 怒られるかと思ったら褒められちゃった」

「ゆいちゃんやれば出来る子だもんね!」

「えへへー、柳瀬先輩が戻って来たんなら手抜いても良いですよねぇ?」

「せっかく褒めたのにお前は怒られたいんだな?」

「お、乙川先輩、来て早々いじめられそうです」

「もぉ〜、久し振りに柳瀬君が来たから甘えたくなっちゃったんだね」



その後久し振りにフルタイムで稼いだせいか気疲れしていたのかどっと疲れた。



「うへぇ〜、柳瀬先輩だらしないなぁ。 あたしより体力なくなっちゃったんじゃないですか? 明日も明後日もあるんですよー?」

「だよなぁ、しばらく来てないとなんかいろいろ変わってるし」

「あれ? そういう意味ではあたしの方が先輩って事ですよね? むふふ…… こら柳瀬! シャキッとしろ! ダラダラしてるんじゃない! ああ、なんかこれ気持ちいい」

「調子に乗んな」

「あたッ! デコピンしたなぁー!」

「相変わらず仲良しだねぇ、ズルいよ柳瀬君」

「あ、先輩お疲れ様です」

「柳瀬君もね、やっぱり柳瀬君が居るといいね、私もゆいちゃんも元気になっちゃう」



そうだな、やっと戻ったんだ。 普通に仕事して家に帰るっていつもの日常に。




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