転調の日

朝、いつもの爆音目覚まし時計ではなく、自分の体内時計で起きた。

「今日はいつもより早いのね。珍しい。」

何故だろうか、昨日よりもすっと目が覚めた。なんでだ。まさか転校生?いやいや、昨日某最後の冒険の主人公みたいに浴槽で興味無いね、とか考えてたじゃないか。ガキじゃあるまいし。一通り言い訳を並べていたら、案外いつも通りの時間に家を出ることになった。いつまでも慣れない坂を上る。満員電車に押しつぶされそうになりながらも下車し、学校に向かった。騒がしい声。クラスのドアを開けると

「カズヤ、おはよー。」

「おーカズヤ、いい朝だな!」

眠そうな声と共に、この時間帯に聞いた事のない低い声が聞こえた。

「お、おう。ユウキ、珍しいなこんな時間に。」

「まあな、なんつーか、小鳥が俺を呼んでたんだよなぁ。早めに来ちまったぜ。」

あ、嘘だわコイツ。朝に弱すぎるこのバカが小鳥のさえずりで起きるわけない。

中学からの付き合いだ、そのくらいわかる。

こんな時間な学校に来るなんて、それこそ転校生でも来ないと…。

不意に、教室前方のドアが開いた。予鈴はまだ鳴っていないのに。おいおい嘘だろこれどんなラノベ?


担任と、すぐ後ろに見たことない女子がついてきた。フラグ回収どころじゃないだろ。俺は未来予知の能力を手に入れたのかと錯覚した。その子は他校の制服を着ていた。紛れもない、転校生だった。

「騒ぐなー、席つけー。今日からこの高校に転校してきた子だ。自己紹介を頼む、新田さん。」

苗字言ったら半分自己紹介終わってるんじゃね?という疑問は頭の隅によせ、俺たちB組は転校生の言葉に耳を傾けた。

「新田コハルです。紡雪高校から転校してきました。よろしくお願いします。」

やっぱり緊張するものなのか。

良く言えば普通、悪く言えば工夫のない自己紹介だった。自己紹介自体に彼女を表す材料がなかったからこそ、クラスの奴ら(俺含め)はという単語に惹かれた。無理もない。紡雪といえば、東北有数の進学校。知名度はというと、関東の偏差値50程の高校に通う普通の高校生である俺達が知ってる程だ。みんな、

「紡雪って超すげーじゃん!」だの

「品があって可愛いー」だの言って騒いでいた。かく言う俺も、彼女に少し、いやかなり興味を持った。なんというか、オーラが違った。芸能人みたいな。しかし、やっぱり冷めてる性格なのか、どうせ大して話さないままクラス変わるんだろうな、という思考にシフトしてしまった。俺は黙々と今日の小テストの勉強をスタートさせた。

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