第2話 破天荒が後輩女子の場合
街中がクリスマスムードに包まれてきた12月某日。
講義の後、バイトに向かう途中で1体のサンタと遭遇した。
「ハッピーハロウィーン!」
「ややこしいな。もう12月だし、格好から見てもクリスマスなのに、お前がそう言ってきたら、ハロウィンの生き残りかと思うだろ」
「えっ、なに言ってるんですか先輩……ハロウィンでサンタコスとか、ややこしいことする訳ないじゃないですかー」
「おい、さっきの第一声を思い出せやコラ」
いきなり面倒くさい絡みかたをしてきたこいつは、俺が通う大学の後輩女子Bだ。
「ちょっとー、なんでモブキャラにするんですかー!私には
会って早々テンション高いなこいつ……あと、普通にモノローグにツッコんでくるなよ、怖いだろ。
「A子ちゃんのことは、お前には教えられん。本当に凸しそうだからな」
「ぐぬぬぬぬぅー!」
こいつとは明理がうちのサークルの新歓コンパに来た時に知り合った。
俺は幹事でもなかったし、端の方で無難にやり過ごそうとしていたのだが、どういうわけか気に入られてしまい、顔を合わせるとこうやって絡まれるくらいの関係になっていた。
「で?お前はこんなところでそんな格好してなにやってんの?バイトか?」
「パ○活です」
「本当になにやってんだよ!というか、本当にパ○活だったら正直に言うなよ……」
こいつ、真顔で言ってくるから、現段階で冗談かどうかもわからないから恐ろしいな……
「もちろん冗談ですよー、安心してください先輩男子G」
「おい、お前の方が俺のことモブだと認識してるじゃねぇか!Gって名前にもかかってねぇし、あの不快感のある昆虫みたいで、マジでいやなんだが……」
「だって先輩って、Gみたいな走り方してるじゃないですかぁ」
「どんな走り方!?」
「えぇー、だって先輩って足が6本あるしー」
「待て待て、お前には俺がどういう風に見えてるんだ……マジで怖くなってきたんだが」
俺ってそんなに足がたくさんあるような動きをしてたのか?いやいやどんな動きだよ。
ずっと、そんな当たり前のこと言わないでください!みたいな顔で言ってくるから、段々と俺が気づいていないだけで、普段気持ち悪い言動をしてしまっているのではと、不安になってきてしまう。
「まあ、冗談は先輩の足だけにして……」
「俺の足、そんなにヤバいのか……もしかして、走り方めっちゃキモい……?」
今まで気づいていなかっただけかもしれない自分の気持ち悪さに、不安を感じている俺を見てケラケラと笑った明理は、何事もなかったかのように会話を再開してきた。
「先輩はこれからバイトですかー?私はあと2時間はここで呼び込みしないとなんですよ」
急に当初の話題に戻ってきて、またこいつに振り回されているなと実感しながらも、やっぱりその格好はバイト中だったのかと、少しだけ安心感を覚える。
「ああ、前に言ってた珈琲屋でバイトだな」
「もう、そこは普通にカフェでいいじゃないですかー」
うるさい、なんか女子に向かってカフェって言うのが恥ずかしかっただけだ。
この気持ちを理解してくれる男とは、すぐに友達になれそうなんだがな。
「それでお前は?なんの店の呼び込みなんだ?」
まあ、クリスマス前にサンタの格好をした呼び込みなんて、ケーキ屋くらいだとは思うが……なんせこの後輩のことだ、多少予想外のところでアルバイトをしていても全然不思議ではない。
「雀荘ですね」
「予想の斜め上すぎるわ!」
もうなんなんだこいつは。というかなんだよ、雀荘の呼び込みって。
そもそも、この通りに雀荘があることも初めて知ったんだが。
「お前それ、本当に普通の雀荘なのか?なんか風営法に引っかかる店じゃないだろうな?」
「む、失礼なこと言いますねー、普通の健全な雀荘ですよ!うちの雀荘はお金も賭けませんし!」
「いや、お金賭けないんじゃ雀荘ではないのでは?」
「だってうちの店は、全ての卓が麻雀格闘○楽部ですし」
「それはただのゲーセンだろ!?」
なんだその斬新すぎる雀荘は。いや、絶対雀荘ではないと思うが。
というか、どっちにしてもそういう種類の店は呼び込みとかいらないだろ。
「それだけじゃないんですよ先輩。なんと麻雀に飽きてきたら、クレーンゲームもできるんです!」
「だから、ただのゲーセンなんだろ!?」
もうなにが本当なのかもわからなくなってきた……なんでバイト前に、こんなに疲れなくちゃいけないんだ。
「そんなわけで、先輩男子G」
「どんなわけだよ、後輩女子B」
もうツッコむのも面倒なので、そのまま先を促した。
「きっと私の方が先にバイト終わるんで、先輩の部屋で待ってますね」
「いやお前、俺の部屋の合鍵持ってないどころか、俺の部屋の住所さえ知らないだろうが!」
結局、すぐにツッコんでしまった。
「そんな先輩、ツッコむなんていやらしい!」
「いやらしい意味では言ってねぇよ!そもそも言ってすらいねぇけどな!?」
なぜ、こいつはときどき俺のモノローグと会話するんだ。もしかして俺って結構顔に出やすいタイプなのか?
「そうですね、先輩は自覚ないかもですけど、普段から思ってることがかなり顔に出ていますよ?」
そうだったのか……今まで自分のことは、結構クールなタイプでポーカーフェイスだと思っていたんだが、認識を改めないといけないかもしれない。
「というか、先輩が自分のことポーカーフェイスだと思ってたことに驚きなんですけどー。全然自分のこと客観視できてないですねーぷぷぷー」
くそ、言い返したいが、こいつの言うとおりだから言い返せない……なんか自分のことをクールなタイプだとか思っていたことが、段々恥ずかしくなってきた。
「まあ、たしかに?先輩と同じサークルの私の友達は、先輩のこと落ち着いてて、優しい人だと思ってたのに、明理ちゃんと話してるの見てると結構面白い人で意外だったーって、言ってましたけど」
「じゃあ、全部お前のせいじゃねぇかよ!というか、さっきからモノローグと会話を続けるなよ!?エスパーか?エスパーなのか!?」
どうやら俺の評判は、この後輩と関わってから、大きく変わってしまっていたらしい。
あと、顔に出やすいからといって、ここまで心が読めるのは、恐怖を通り越してもはや尊敬するレベルだ。こいつと賭けだけは絶対にしないようにしようと、堅く心に誓った。
「だいぶ話が脱線しちゃいましたけど、とにかく私はバイトの後、暇なんで先輩と遊びたいって話です!」
「じゃあ、最初からそう言えよ……」
もう今日は、このままバイト休んで部屋に帰りたい……もう眠りたい。
「だって、しょうがないじゃないですかー。先輩で……、先輩と話すの楽しいんですもん」
「お前、今絶対、先輩で遊ぶの楽しいって言おうとしたよな?」
「はにゃぁ?」
「急に変なキャラをぶっ込んでくるな、ぶっ飛ばすぞ」
「すいません」
そこで明理と視線が合って、二人で笑い合った。
「それで、バイトの後に遊びたいんだったか?じゃあ、俺のバイトが21時までだから、そっちのバイトが終わったら、うちの店に来て珈琲でも飲んでろよ。その後にとりあえず飯でも行くか」
「えっ、いいんですか……?」
「遊びたいって言ったのはお前だろ?俺はバイトの後、そのまま帰ってもいいんだが?」
「いえ、行きます!バイト終わったらすぐ行きます!……えへへー」
こんな約束一つで、こんなに嬉しそうしているのを見れば、俺も悪い気はしないしな。
「なに食べに行くかくらいは、お前が決めておけよ?」
「任せてください!……んふふー」
「……なんだよ?」
「いいえー?……いつもありがとうございます、
「……なあ、明理」
「……なんですか?」
「登場人物のキャラ名は、最初に言っとかないとだろ……」
「……すいません」
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