第19話
オバちゃん達が帰った後、いつもより少し早めに店を閉めて、ヤツの話を聞く。
日も落ちて、暗くなった時、私の家から電話があった。
どこのお喋りオバちゃんが言ったのかは知らないが、ヤツが帰ってきたことを知り、家でパーティをするからつれて来いと言うのだ。
「どうする?」
「ん、丁度エエわ。送っていくついでにご飯をごちそうになろうかな」
「……送っていく? まさか」
「嫁入り前の……」
「ったく、そういう所は全然変わってへんねんから。ま、いいや、久しぶりに帰るか~」
「なんや、帰ってなかったんか?」
「ん、店、休んだことないし。それに、用事があったら母さんの方から来たしな」
「……そっか、ありがとう」
改めて御礼を言われるとなんだか照れてしまう。
私はとりあえずの着替えなどを大きめの鞄に詰め込んで、久しぶりにヤツの運転する車に乗って自分の家に向かった。
途中、どうしたのかヤツは道をそれて、車を止める。
「……どうしたん?」
「見てみ、今日は満月や」
ヤツに言われて見上げてみれば、夜空に大きな満月が輝いていた。
「上弦の月やったな~ココで会ったのは」
「あ、そうか、あの場所か。フフッ、必死で追いかけてきたのに文句1つも言えんかったっけ」
「本当はもう少し早く帰れたんやけどな、今日が満月やから態々今日帰ってきたんや」
そういうヤツの顔が暗くて、月明かりに照らされているだけだけど真っ赤になっているのは良く分る。
首をかしげている私の手をとり、そっとその手に何かを握らせ、私は手を開いてそれを見た。
二匹のイルカが薄いピンク色と透明度の高い青い石のボールを跳ね上げているモチーフのついた指輪が1つ。
「コレ、何?」
「ローズクォーツとブルートパーズの指輪」
「……ん、指輪なのは見たらわかるんやけど」
「……ずっと、俺の家で住まへんか?」
「え? でも嫁入り前の娘が。あっ! え?! それってプロポーズだとか?」
ビックリして言う私の様子に、クスクスと赤い顔をしてヤツは言う。
「ったく、折角のムードもぶち壊しやな」
そして、笑顔のまま、ヤツはハァと1つ溜息をついた。
私はフフッと微笑んで、ヤツがくれた指輪を中指にはめ、そっとその手でヤツの口を塞ぐ。
「溜息したら幸せが逃げるんやで?」
そういって、ニヤリと笑った私の顎にヤツは手を置いた。
キョトンとする私の鼻先まで顔を近づけて、ヤツは言う。
「そやったら、これからは溜息つきそうになったらこの口に吐き出すことにしよう」
「ん? どういう……んンっ!」
真っ赤な顔をしているくせに、ヤツは私の唇に自分の唇を重ねてフッと口の中に息を吐いた。
「コノヤロウ……」
私は真っ赤になってつぶやくのだ。
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