第18話
それから私は通いでヤツの店を手伝うことになる。
あの後、ヤツはしっかり私を送り届け、両親に挨拶をしていった。
恥かしくなる位に丁寧で、まるでお嫁さんにくださいといわんばかりで、思わず私が赤面する。
当の私の両親といえば、それはもう二つ返事でどうぞどうぞお持ちくださいと私を差し出して、ヤツは結構拍子抜けした見たい。
1ヶ月間と言う約束だったけど、私のもの覚えの悪さのせいで、ヤツは私の面倒を2ヶ月見てから、旅立った。
ヤツが居なくなって、私はこの家に住み込むようになる。
住み込みはダメって言ってたけれど、自分がその家に住んでいなければ良いんだって。
律儀と言うかなんというか。
ヤツが居なくなってから、私はこの家で、ヤツの両親の仏壇と一緒に生活し、店を毎日開けた。
休みはなし。
苦にならなかったのが不思議な所。
田舎の商店街の書店だし、店もそんなに広いわけじゃないから殆どの本は取り寄せだった。
ヤツに内緒で、店の一部に休憩場所を作ったら、コレが意外に好評で、この店に人の居ない時は無くなる。
ヤツはたまに忙しい合間をぬって電話をくれたりしたが、連絡手段の殆どは手紙だった。
このインターネット時代に。
って始めは思ったけれど、やって見ると文通も中々良い。
ヤツの律儀な文字にいつもフフッと笑って読んでいる。
そんな日が何年か続いて、私もスッカリこの商店街の一員として溶け込みまくった時、笑顔で本屋の片隅にある、雑談ブースでいつものオバちゃん連中と雑談をしていると、来店のチャイムが鳴り響いた。
「はぁ~い、いらっしゃ……い……」
「……全く、賑やかやな~勝手に店改装してからに」
「な、何で? ま、まさか! ダメやったんか?!」
「アホ! この俺がダメになるはず無いやろ?」
「え?! じゃぁ……」
「コッチのな、大学教授にって誘われたから二つ返事でOKしたんや。研究し放題やで」
心臓が止まったかと思う。
嬉しくて、嬉しくて、心臓が止まったかと思った。
この数年、声は数えるほどだけど聞いていたし、手紙は数え切れないほど手にしている。
でも、会うことは無かった。
会いたかったけど、互いに会わなかった。
互いに、それぞれ自分の心と一緒に走り出した所、会えばきっと寄り添ってしまう。
それがイヤでそうなりたくなかったから2人とも会いたいとは言わなかった。
そんなヤツが急に現れたもんだから、驚きよりも嬉しさで死んでしまうかと思った。
思わず、涙が出てきて、後ろから雑談していたオバちゃん達がひやかす。
冷やかしの声に満面の笑顔で涙を流す私だったが、ヤツは相変わらず赤面してオバちゃん達にバシバシ体を叩かれていた。
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