第16話

 次の日、私が目を覚まし外に出てみると、ソコにヤツの車は無い。

「もう帰ったんか。ふぁぁぁ~」

 大きな欠伸をすれば後ろから母さんが声をかける。

「もう帰ったやなくって、アンタの起きるのが遅いからやろ」

「そりゃ悪うございましたね」

「悪いと思ってるんやったら、ちょっとは手伝ったらどうや?」

「あ、私用事あるから無理」

「よ~ぉじぃ~?」

 全く、疑り深い親を持つと子は苦労する。

 じっとりした視線を感じながらも、居間に用意されている食事をたいらげ、着替えを済ませた。

 家を出かけようとしたとき、回覧板を近所に届けた母さんに出会ってチラッと見て聞く。

「ねぇ、母さん」

「何だい、馬鹿娘」

「(馬鹿って)もしかしたら、私、この家を出るかもよ」

「はぁ? 就職でも決まったんか?」

「そういうわけやないけど。ま、帰ったら話すわ」

 そういって私はヤツの書店へと出かけた。

 案の定、シャッターは閉まっていたが、車はあるから帰って来ているようだ。

 私は裏手に回って、庭に入り窓を叩く。

「ん? 何やまた来たんか?」

 奥から出てきたヤツは窓を開け、呆れた風な表情で私を招き入れた。

「何してたん?」

「本屋の整理。やっぱり本屋を閉じようかと思ってさ」

「なぁ、そのこと何やけど。私を雇わへん?」

「はぁ?!」

「住み込みで」

「はぃ?!」

 素っ頓狂な声を上げるヤツに私は自分を売り込んだ。

 1ヶ月でいいから店の事を教えてくれたら私がこの店を守ってあげる、給料は要らない。

 生活していけるだけ儲けを使わせてくれればそれで良い。

 その代わり、夢を必ず叶えると約束してほしいと。

 ヤツは、驚きの表情から少し顔を曇らせて、黙って私の話しを聞いていた。

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