第15話

 私の足の痺れが取れるまでと、ヤツは私を抱っこしたまま色んな宇宙の話しをしていた。

 それこそ本当に楽しそうに、少年のように。

 興味を持ったのは自分の書店に運ばれてきた新刊の宇宙図鑑だったらしい。

 自分の足の痺れが取れても、ヤツの話は終りを知らず、いつの間にか陽は暮れていた。

 部屋の中が薄暗くなって、ヤツは慌てて私を家まで送ってくれ、事情を知っていた父さんがヤツを家に上げて夕食を一緒に食べ、お酒まで飲ませる。

 結局、車の運転も出来ないからヤツはウチの家に泊まることになった。

 客間に酔いに酔ったヤツを寝かせた父さんが、客間から戻ってきて呟く。

「ありゃ、酒に弱いやっちゃな~。なのにあんなに飲んでからに。かわいそうにな。しんどいんやろうな」

 父さんの呟きに私はなんだかフッと息を吐いていた。

 溜息じゃない息。

 母さんたちが話す中、私は「おやすみ」といってその場を後にした。

 最近は自分の部屋に戻ったらすぐに窓を開ける。

 ベッドに横になって、星空を見上げるのが習慣になりつつあった。

「宇宙か……」

 宇宙が好きだと言ったヤツの輝いた顔。

 思い出すと少し噴出しそうになる。

 考えてみれば部屋に置かれた本の殆どがそんな感じの本だった様な気がした。

 難しそうで、全然見てないけれど、壁に貼られていた蒼い月の写真が印象的だったのは覚えてる。

 何にも考えず、ただ、その【時】に流されるままやってきた私にはヤツの夢が羨ましく思えた。

 それと同時に、ヤツの夢が叶えばいいのにと思った。

「私と全く違うんだよね~自分の事も考えて、それで居て、親の事も考えて」

 私は黄色く輝く月を見つめて、フッと月に向かって息を吹きかける。

 別に意味は無いけれど、三日月の月は息を吹きかければゆりかごのように動きそうな気がして。

 勿論、月はゆれないけれど、ユラユラと揺れればそれは私の様な気がした。

 アッチにフラフラ、コッチにユラユラ。

 そんな風に生きてきた様な気がする。

「ホント、ダメな私だな~」

 息を吹きかけても揺れない月を見て、私はフフッと含み笑いをした。

 

 【悪い事】っていうのは起こそうと思わなくっても起こるのに、【良い事】って言うのは行動しないと起こらない。

 

 私は動くことにしてヤツの家を訪れる。

 タイミングは悪かったけれど、ヤツの夢を聞けた事は良い事で、私はそうねと1人頷いた。

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