第14話
ヤツは私の体をゆっくりと戻そうとしたが、究極に痺れて感覚がなくなっていたはずの足が微妙に戻りつつあり、少し動かしただけで私は悲鳴を上げるようにのた打ち回る。
「ア、アカン。暫くこのままにしてぇ~!」
「……痛くても少し動かした方が早めによくなるで?」
「嫌や! コレはアカン~!」
「しゃ~ないな~」
叫ぶ私に呆れ顔ながらも笑顔でヤツはそういって、ただ、支えていただけの私をグイッと自分に引き寄せた。
胡坐をかいて、その胡坐の真ん中に私のお尻が綺麗におさまり、左の膝の上に私の背中を、右の膝に私の膝裏を乗せるようにして、抱きかかえなおした。
体は楽になったけど、体の片側が見事にヤツに密着していて、これはこれで妙な緊張をする。
でも、ヤツの真っ赤な顔を見ればそんな緊張も笑いに変わった。
「な、なんやねん。急にクスクス笑って……」
「だって、顔が真っ赤やねんもん」
ククッとヤツの胸に頭をつけて笑えば、ヤツはくすぐったそうに笑いを堪え、沈んで暗かったヤツの表情が明るくなる。
「なぁ、本屋どうするん? っていうか、これからどうするん?」
「……これから、か。ホントにな~どうするんだろうな」
「なんや、自分の事やろ?」
「急だったからさ。何も考えてない……というか何も考えられないまま今日になったって感じかな」
「そ、そっか。ごめん」
「謝る事やないやろ? ……実は、少し迷ってるんだ」
「迷ってる?」
「親父は俺に自分の道を進めって言ってくれた。夢を追えって。でも、俺はこの本屋も好きやねん。だから……」
「そういえば、夢って何? この前はごまかされたけど」
「俺の夢は宇宙」
「宇宙? 宇宙飛行士になるん? NASAとか言うヤツ?」
「いや、そんな大層なもんやなくって。天体観測とかの天文学の方」
「べ、勉強か~へぇ~」
「ククク、その様子だと、勉強嫌いやな?」
「好きな方がおかしい」
そういう私にアハハと大きな声でヤツは笑い、私を抱きしめている手がキュッと強く握られた。
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