第13話

 全て話し終わったとき、私はヤツの顔を見ることができなくなっていた。

 下を向いて布団に人差し指で「の」の字を沢山書いて。

 暫くの間、沈黙が続く。

 横に座っているヤツと私の間は結構開いているにもかかわらず、私にはヤツの体温が伝わってくる様な気がして、ちょっとした布ズレの音にも私はドキンと胸が跳ね上がった。

(アカン、もう耐えられへん……)

 元々、堪え性がないと言うか、沈黙が耐えられない体質の私。

 幾ら待ってもヤツは言葉を発しないし、私自身何を言えばいいのか分からず、私はこの場から、とにかく居なくなった方がいいかもしれないと、立ち上がった。

「ぁ! ……うわぁ!」

 当然の結果ながらも、予期せぬ事が起こる。

 私はベッドに腰掛けていたわけではなく、床に敷きっぱなしにされた布団に座っていた。

 初めての場所だから緊張して正座をして。

 この数ヶ月の怠惰な生活や、言っても洋風の生活が私の足を見事に痺れさせていた。

 そんな痺れた状態で立てばどうなるか。

 そう、私の足は見事に地面についているにもかかわらず、その地面の感覚をつかめないで、変にクニッと曲がって倒れる。

 前ではなく後ろに向かって。

 この部屋の開いている空間はこの布団の上だけ。

 せめて前に倒れれば腕でなんとなかっただろうが、後ろに倒れた私は覚悟した。

(絶対、頭ぶつける! 何かにぶつける!)

 ギュッと目を閉じて、とっさに手が庇ったのは後頭部。

 腹筋でもするように庇った後頭部だったが、後頭部が何かにぶち当たる前に、私の体はその傾きを止めた。

「あ、あり?」

 瞑っていた瞼を開けてみれば、そこには少し顔を赤らめたヤツが居る。

「だ、大丈夫?」

「うん、平気。ありがとう。痺れがきれて」

 アハハと笑う私の太腿にスッと何かがかぶされる感覚がして、私は視線を自分の足へと向けた。

 倒れた拍子に痺れた足は大きく投げ出され、痺れているが故に、可愛らしく倒れる事ができず、大の字といわんばかりに足は開かれている。

 しかも、運悪く変に張り切って短いスカートを穿いていたので、私の太腿が綺麗に見えていて、ヤツはそれを隠す為に傍にあった布団を何気にかけたのだ。

 でもって、私の太腿を見たせいかヤツは赤面。

「……意外に初心?」

「なっ! お前なぁ~」

 私の呟きに呆れたように言ったヤツだったが、今日はじめて表面だけではなく笑っている、そんな笑顔を見せた。

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