第12話
ヤツの憔悴している理由は庭から家に入ってすぐに理解し、そして、私は来るべきではなかったと後悔する。
中に入り、白い小さな箱と写真が乗っている台がある部屋を抜けて、階段を登りヤツが開いたドアから中に入った。
隅から隅まで壁と言う壁は本で埋め尽くされ、床にしたって寝る場所さえあればいいと言ってる様に敷きっぱなしの布団の周りは本で埋め尽くされている。
「散らかってるな……別の部屋に」
「かまわんで。ココで」
「そうか、悪いな……」
唯一の空間ともいえる敷きっぱなしの布団に腰を下ろすと、すぐ横にヤツが胡坐をかいた。
「1人なん?」
「ん……1人になってもうた」
その言葉にやっぱりと私は思い、なんと言ったらいいのか分からず、黙ってしまう。
そんな私にクスッと横で笑い声が聞こえて、ヤツが呟いた。
「前会った時はもっと百面相やったのに今日はその顔ばっかりやな」
「そ、そんな事言うたって……空気読めんアホやと自己嫌悪してんねんから」
「空気読めない?」
私の言葉に疑問符を出して聞くヤツに私は口篭る。
どのへんが……そう、聞かれたところで答えられるわけが無い。
こんなときに、何かを期待して、変におしゃれをしてきた自分は十分に空気が読めていない。
でも、そんな馬鹿なこと、答えられるわけも無かった。
ハァーと溜息を漏らしてしまった私の顔を覗き込むようにしてヤツが言う。
「溜息をつくと、溜息の分だけ幸せが逃げるんやで」
「……それ、変な迷信やろ? 実際にこんなことで幸せが逃げるわけないやん」
「ククク、現実的やな~。ま、迷信やろうな。実際の溜息って言うのは色んな意味で大切なもんやから」
「そうなん?」
「心配事や、緊張、失敗した時、なんかグッと息が詰まるやろ? それを体が解消する為に自然に行なわれる行為らしいで。……今、緊張しとるんか?」
「……緊張って言うより失敗やわ……多分」
「失敗? 何の事や?」
再び深く溜息をついた私は、ジッと見つめて聞いてくるヤツの瞳を見ていると、不思議と話すつもりも無かった、この何日間かの出来事をヤツに話していた。
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