第10話

 その夜は弟に怒られるわ、親に怒鳴られるわ、踏んだり蹴ったり。

 でも、そんな中、父さんが言った。

「しかし、あずみの本屋のオヤジもエエ息子を持ったもんだ」

「……父さん知ってるの?」

「あぁ、子供の頃は良くあそこに本を買いにいったしな~。かなり大きい兄ちゃんが1人おってな~よう話してもらったもんや。確か息子の出来が良くってな~東京の有名な大学行った言うて聞いとるけど、帰って来てたんやな~」

「へぇ……何で帰ってきたんやろ?」

「そりゃ、家継ぐ為やろ」

「ふぅん、家継ぐためか……」

「そうそう、アンタと違って、偉いな~~」

「うっ……か、母さん。アンタと違ってって……」

「帰ってくるだけ帰って来て、怠惰な生活送ってるアンタの事や。ったく、就職活動するわけでもなく、かといって見合いは嫌やいうてからに」

「お、おやすみなさい」

「あ! 逃げるんか?!」

 どうしてか、母さんが話しに加わるといっつも私の旗色は悪くなる。

 まぁ、それだけ私の事を分かってしまっているって言う事だろうけど。

 私は自分の部屋とあてがわれている部屋に引っ込んで、初めて夜に窓を開けて空を見た。

 部屋の電灯のせいか、あそこで見た星空よりも少し星が減った様な気がしたが、月の明るさだけは変わらない。

「月の光って結構、眩しいんやな~模様見えへん」

 来るまで帰ってくる途中、月の模様の話しをしてもらった。

 ウサギの餅つき、なんて間抜けに言った私の答えにも馬鹿にする事無く「そうそう、日本ではね」そういったヤツは、世界では月の模様を「ワニ」「人の横顔」「カニ」「ロバ」と色々言ってるんだよと話してくれた。

 どうしてか、思い出すのはヤツの話とヤツの顔ばかり。

 フゥと溜息をついた私は布団に潜り込み、窓から見える上弦の月を眺めて眠った。

 それから数日。

 私は、やかましい弟を横目に弟の自転車で図書館に通う。

 でも、1週間してもヤツは図書館に姿を見せることは無かった。

(……この前はたまたまだったのかな~?)

 そんな事を思いながら私は本を読むことなく図書館の入り口のブロックに腰掛けて過ごし、そんな私のところに図書館のオバちゃんが話しかけてくる。

「なんや、こんな所でどうしたん?」

「ん~ちょっとさ……あ、オバちゃんさ~あずみ書房って知ってる?」

「あぁ、ウチの図書館に本を入れてくれてる本屋さんやろ? 月に1回だけ来てな~本を持って来ないときも本の修理とかしてくれるんや。それがどうかしたんか?」

「ぅうん、この前さ、私の席に座ってたからいっつも来るんかな~って思って」

「あ~~、安心し、この前来た所やから暫くはアンタの席は空席やで」

「ん、ありがとう」

 オバちゃんに笑顔で手を振った私だったが、オバちゃんがその場からいなくなってからフ~と長めの溜息をついた。

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