第9話
「……無いのか?」
私の態度に鋭くそういったヤツの言葉は何故か私の胸を締め付ける。
ヤツは視線をそらし続ける私の顔の前に自分の顔を持ってきて私の顔を覗き込んで更に言った。
「無いんやな?」
「な、無かったら悪いんか?」
頬を膨らませ、ひょっとこのように唇を尖らせる私にヤツはプッと噴出して笑う。
笑われるようなことをしてないのに……と私はチラッと視線をヤツに向けた。
ヤツはなんだとても無邪気に楽しそうに笑っている。
「そ、そんなに笑わんでエエやんか」
「ごめん! めずらしいな~と思ってさ。今時、そこまで百面相するヤツ」
「どうせ、私は絵本で泣く女ですからね~」
「アハハ、まだ根に持ってるんか? しつこいのは嫌われるで」
私にそういったヤツはエンジンをかけて車を発進させ私の方を見て聞く。
「……家何処や? 送ってってやる」
「図書館の向こうの……」
「道案内してくれるか?」
「う、うん……」
星空の中、真っ暗な道に車のヘッドライトだけが輝いて、照らし出された道はずっと向こうの暗闇へと続いていた。
私の道案内の言葉の最中、隣のヤツは色んな話しをしていて、私はその話に夢中になる。
聞いたことの無い話が多くて、彼が言うには本の受け売りらしいけど、私にはとても新鮮だった。
腹を立てて、ムカついて、そうしてただ追いかけてきたのだけれど、今はなんだか、ヤツの話をずっと聞いていたい。そんな変な気分になっていた。
出会ったのは数時間前。
しかもヤツは私のお気に入りの場所を陣取っていたのに、今は隣に座っていて。
嫌味な感じの言葉を発していた口からは次から次へと冗談交じりで色んな知識が飛び出してくる。
そう、まるで前からずっと一緒にいた幼馴染の様なそんな感覚。
楽しい時間って言うのはあっという間で……。
そんなに遠いって訳じゃないから当然なんだけど。
家につく直前、「あそこ」と指差そうとして一瞬ためらった。
そのまま言わずに車に乗って話しを聞きたいと思ってしまったから。
でも、そんな事する勇気も無くって指差して玄関灯のついた一軒の家を指差し言う。
「あ、そこ……」
車はスッと私の家の玄関先に止まり、ヤツはイイって言うのに玄関までやってきて、なぜかウチの両親に謝って帰って行った。
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