第8話

「俺んち、この田舎の小さな寂れた商店街の古ぼけた書店でさ~」

 そういいながら、ヤツは私を自転車から降ろし、自分のハッチバックの車の後ろを開けて、私の(ま、本当は弟の)折りたたみ自転車を折りたたんで乗せる。

 なされるがままにその状況を見ていた私は、誘われるように開かれた助手席へと腰を下ろした。

(あ、あり? 何で乗ってんだ?)

 私が腕組をして頭を傾げているその横に、さも普通に運転席に座ったヤツはフーと息をついてハンドルにもたれ掛る。

「売り上げなんて無いんや、殆ど。でも、生きていくには売らんとアカンからな~」

「なんや、辞めたいん? やったら辞めたらエエやん?」

「辞めたい……う~ん、ちょっと違うかも」

「違うって。まるで辞めたいのに辞められへんって言ってるみたいに聞こえたで?」

「あ、そう聞こえた? そういう意味やなくって、俺にはちょっとやりたい事があるからさ~それをやりたいんだけど、生きるには店を開けないとダメだし、店を辞めようとは思わないんだ」

「……やりたい事って何?」

 聞いた私の視線の先で、ハンドルにもたれ掛って俯いていたヤツはクイッと顔を上げてジッと夜空を見上げた。

「お前には何かある?」

 私の質問に対しての回答が返ってくるものだと思い込んでいた私は唐突に質問返しをされて面食らう。

「な、何かって?」

「生きている意味……いや、そんな堅苦しいことやないな、何をおいてもやりたいこと。目指しているもの……夢」

 そんな事を言われて私は「うっ」と心の中で詰まり声を上げた。

 頭が良い訳ではない私は普通に公立の小中高を過ごし、それが当然のように女子大に進学した。

 何かの目的があったわけではなく、また、自分のレベルにあった大学だ、

 単位さえとっていれば遊んでいても留年する事無く進級し、卒業できるそんな女子大。

 卒業して、田舎に帰るのが嫌だったから就職先が見つからないとわかったとき、派遣会社に登録する。

 何とか貰った派遣先で働いていた。

 田舎が嫌で、都会が輝いて見えて、人ごみや人の波に流されていると、その中に溶け込んでいる様な気がして、ワザと人ごみを歩いたりして。

 そんな風に生きてきた私に「何かある? 」そう聞かれても答えが出るはずも無い。

 ジッと私を見つめてくるヤツの瞳になんだか責められているような気がして、私は思わずその視線をそらしてしまった。

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