第7話

 握られた手を振り払うように弾いた私は、ゆきんこのようにコートを被ったまま、スタスタとソイツを見る事無く車の近くまで歩いて行く。

 サクサクと、雑草を踏みしめる音が後ろから響いてきていた。

(ま、自転車のあるところに車があるから当然か)

 車の近くに来て、自転車にかけた鍵を外そうと近寄ったとき、後ろから大きな声が上がる。

「あ! く、車にチャリンコくっ付けとる!」

「……ま、細かい事は気にしない方向で」

「お、おまえ。あ! 乱暴にすんな、ゆっくりしろや! 車に傷入る!」

「そんな事……元々ボロなんだから気にしちゃいけないな~兄ちゃん」

「何基準でボロや言うてんねん! ったく」

 小煩い声にうんざりしながら、車から自転車を放し、腰に自転車をもたれかけさせたままで頭から被っていたコートにキチンと腕をとおした。

 細身でヒョロッとした感じに見えたのに、袖から腕は出ないし、肩は落ちている。

 背も高いのだろう、丈は引き摺りこそしなかったがギリギリだった。

 自転車に跨り、さも、それが当然のように振り返って、手を顔の横に上げ「じゃ! 」と言った私にヤツはスタスタと足早に近づき、素早く自転車のハンドルを握る。

「何が『じゃ! 』やねん。シレッとコート来て、さよならってか? アホ!」

「……ダメっすか。やっぱり」

「名乗りもせずに人のもんかっぱらいやがって。ダメに決まっとるやろ。っていうか、お前何しにココまで来てん」

「あ~~なんだろね~? (文句言いに来たとはもう言えない)」

「どうせ、図書館で言われた事にムカついてきたんやろ? 単純」

「フン、違うわ。ちょっと……星を見に来ただけや」

「……下手な嘘やな」

 自転車のハンドルを押さえたまま、私の横に立つ、クスクス笑うヤツの顔をチラッと見た。

 月の光に顔の半分を照らされている顔をぼんやりとみていると、ヤツは笑うのを止めて私を見る。

「で、ホンマは何を言いたかったん?」

「……馬鹿にすんなって言いにきたんや」

「馬鹿に? 俺が馬鹿にしたって言うんか?」

「したやろ? ウルウルって……」

「なんや、馬鹿にしたってとったんか。そりゃ残念」

「え?」

 溜息をついて少し悲しげな瞳を向けるヤツに首を傾げれば、ヤツはそっと言った。

「嬉しかったから言うたんやけどな~」

「う、嬉しい?」

「そう、嬉しい。あの図書館に人が来るのも珍しいのに、絵本読んで感動してる人を見て嬉しかったんや」

「……へ、変人?」

「だから、大雑把に会話を終わらせようとするな!」

 ヤツは私をポクッと小突いて、途切れない含み笑いを更にクククと笑う時間を増やした。

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