第6話

 見渡せでも、そこにあるのは暗闇。

 田舎の田んぼの中にある路地なんて真っ暗で当然だ。

 街灯があるわけでも、車の通りがあるわけでもない。

 光源自体が一切無いのだから、暗闇であるのが当たり前なんだけどね。

 真っ暗な中でも何故かほのかに道は見える。

 今日は上弦の月。

 満月ほどでは無いけれど月明かりで困らない程度には見えるのだ。

 だが、その光も人を探すのには不向き。

 見上げる空には働いていた時には見えなかった星が沢山輝いている。

 田舎の山奥。

 プラネタリウムなんて必要ない。

 ネオンもなくて、空気も冷たく、澄んだ中で星空が満喫できる。

 しかし、この田舎に帰って来て、空を見上げるのはコレがはじめてだ。

 夕日が沈む前には家に帰って、自分の部屋とあてがわれた場所で弟から取り上げた漫画本を読み漁って、母親が呼びに来れば夕食を食べ、風呂に入って、はいおやすみ~。

 そんな生活をしていたから当然、夜に外に出て空を見上げるなんてしてなかった。

 意外にきれいだな~と見とれていると、その視界の前に白いふんわりとした煙が……

「うっ、息が白い……くぁ、夜はやっぱり冷えるな~」

 自分で自分の腕を抱いて、こすってブルルと体を震わせた。

 夕方まではまだ陽の光があるから、いっても薄着。

 その状態で必死こいて自転車を走らせ、運動不足の体に汗を沢山かいて、そして、今、寒空の下、私は動く事無く一箇所に立ち止まっている。

 当然、寒さも体の中心までジワジワ染み渡り、骨をガタガタ言わせているのだ。

 スゥ~と吸い込んだ冷たい空気は、何故か紙縒りを入れられたように鼻奥の壁をくすぐった。

「ひ、ふ、は、クチュン! ふぁ~~」

 くしゃみをしても未だなんだかグズグズする鼻を手で摘まんで数回揺らし、また出てこようとするくしゃみを止める。

「……もういいや、帰ろ」

 私が溜息を付いて車のところへ歩いていこうとした時、フワリと頭から生温かい何かがかぶせられた。

「う……生ぬるい」

 思わず言った私は頭をポクンと叩かれ、叩かれた部分に手を置くと、私の手の平を温かく大きな手が握る。

「折角、コートを貸してやってるのに生ぬるいとはなんや……」

「だって、生ぬるい……」

「じゃぁ、返せ」

「やだ、寒い」

「ったく、どっちやねん」

 溜息混じりにクククと堪え笑いが聞こえてきて、私はなんだかむ~と口を尖らせてしまっていた。

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