第5話

「あいつ~何処行った!」

 図書館を出て、周りを見渡すが、男の姿は見えない。

 冬の陽が落ちるのは早く、まだ5時だというのに夕方の紅い光が差し込んでいる。

「結構すぐに追いかけたはずなのに……」

 キョロキョロしている私の目の前を一台の車が走り去ろうとして、私はその運転席に何気に眼をやって「あ! 」と叫んだ。

 さっきの嫌味な男が運転席に腰掛けて前方を見つめながら走り去って行く。

「ちょ、ちょっと!」

 私は何故か諦めることをせず、急いで折りたたみ自転車に跨ると、その車の後を追った。

 明らかに。

 誰がどう見ても無謀な追跡。

 折りたたみ自転車の小さな車輪はペダルを結構踏込んでも進む距離はしれている。

 唯一、救いなのはココが田舎だと言う事。

 邪魔をする建物も何も無い、それなりに直線の道はどんなに離れた場所に車が行こうともその豆粒の様な姿を追いかけられる。

「ま、全く……ドコに行くのよ!」

 グイッと立ち上がり、懸命に自転車をこぐ私の目の前の豆粒は急に姿を消した。

「ぬぁ! ふ、ふざけんな! ココまでやらせといてそりゃ無いでしょ!!」

 普段から惰眠を貪っていた私に体力があるわけも無く、ハァハァと息を上げ、時折オェッと言ってやめておけばいいのに、車が消えた所までと立ちこぎで頑張る。

 どれほど頑張って走っただろう?

 車が消えた場所まで付いた頃には紅い夕焼けはなくなり、地平線だけが黄色く、そして、空にはチラチラ星がきらめき始めていた。

「はぁ……ば、馬鹿なことをしてしまった……」

 自転車を止めて、サドルに腰をおろし、ハンドルにうつぶせるように息を整えながら呟く私は一応あたりを見回す。

 例え、この先を車が走っていても既に暗くなってきているからヤツの車だと確認出来やしない。

 でも、折角ココまで来たんだからと見回したのだ。

「あ、あれ?!」

 一応の確認は功を相する。

 なんとなんと、目の前にヤツの乗っていった車があるではないですか!

「……あったのはね~良いんだけど。何でこんなところにあるわけ?」

 自転車から降り、ハンドルを押しながら近づいて、窓から中を覗いてみたが、中に人のいる気配は無い。

 周りを見渡したけれどあるのは田んぼばかり。

 自転車を車のサイドミラーの部分に盗まれないようにチェーンでしばりつけていると、車体に文字がある事に気付く。

「……あずみ書店? あれ? なんか聞いた事があるような?」

 その文字になんだか覚えがある様な気がしたが、とりあえず横において、私は車を離れ、人影を探した。

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