第2話

 そして、結局。


 「とりあえず」と「一時的」は「当分」と言う言葉に変わってしまう。

 私はもともと根性がある方ではない。

 流れるままに流される、一言で言えばダメ人間。

 自分でもそれは重々承知している、しかしダメ人間であり続けようとは思っていない。

 ただ、環境がそれを許さなかった。

 家賃の心配も、食事や光熱費の心配も無い。

 自堕落になってもいいよという囁きが常に聞こえる状態の中で私が「マトモ」でいられるはずはなく。

 かつての都会一人暮らしの道具達は今、この田舎の使わなくなった農機具小屋に放り込まれている。

 いつかの出番を信じて待ってもらっているつもりではあるが、それが何時になるのかはこの私にも分らない。

 楽な流れに流されて賃貸契約を解除、田舎に帰ってきたが、最近は少し帰ってきたことを後悔していたりもする。

 当然のことだが、チヤホヤされていたのははじめのうちだけ。

 もともと母は働かざる者食うべからずという精神の人だから、賃貸契約を解除したらやれ働けそれ働けと尻を叩かれる。

 私はこのところ、午後になれば外出するようになっていた。

 午後な理由はひとつ。

 午前中は惰眠を貪っているからだ。

 実家であるはずなのに、何故か居場所が無い気持ちになって、始めはただブラブラと時間を潰していた。

 しかし、それにも限度がある。

 なぜなら、田舎の風景と言うのは数日見れば飽きてくるから。

 ポツリポツリと家のがあって、そのほかは畑や田んぼ。

 中央車線すら引かれていないアスファルトの道路。

 少し外れればアスファルトなんて無い、あぜ道といってもいいような道がある。

 何も無い。

 毎日変わらない風景がそこにある。

 沢山の人の波だって起こらない。通るのは代わり映えのしない近所のオジサン、オバサンだ。

 日々、既に役場で働いている弟が大切にしているらしい、少しカッコイイ折り畳み自転車を勝手に拝借。

 暫く走るとある町の図書館で午後の時間を過ごすようになった。

 ココは静かだし、本を読めば暇つぶしも出来て、椅子もある。

 数日通えば、私はすっかり、そこの職員のオバちゃんと知り合いになってしまった。

「あら。今日は少し遅かったんやね~」

「ん~ちょっと寝過ごして……」

「アカンよ~若い子がこんな時間まで寝て~」

「ハハッ……」

 田舎に帰って来てから、私は愛想笑いが下手になったな~と思う。

 ついつい、素直な自分の感情が顔に出てしまう。

 苦笑を浮かべてオバちゃんと別れた私はズラッと並ぶ本棚に向かった。

 都会の図書館とは違って小さなものだったが、本の量はかなりある。

 でも、暇を持て余している私はもう、殆どの本を読み漁ってしまっていた。

「……どうしようかな~」

 何気に見たのは児童書。

 今更……そう思いながらも、既に余り読む本が無い私はそっと、懐かしい感じで児童書を数冊もって、いつもの席に向かった。

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