其之漆
「いらっしゃい! 何をお求めで?」
大通り沿いに建ち並ぶ各種店舗を眺めつつ、店頭で装飾品類を置いていた店へ寄ってみる。
店内奥から対応に現れた男性は、綺麗な装飾品には似合わないような厳つい風貌ではある。
奥の壁際に纏められている工具類を見るに、どうやらこの主人が自ら拵えた物を販売しているようだ。
「あぁ、この
「わかった!」
答えるとミィは早足で店内に置いてある品を物色し始める。
「なるほど、見た目重視ということで……付与魔法のご希望はございで?」
「付与魔法……? どういったことが出来るんだ?」
「皆様ご利用なのは『能力強化』系ですかね。身体能力や魔法力を幾分か上昇させることが出来まして。あとは怪我・負傷を軽減してくれる『守護』、一対での購入必要ですが、離れていても意思疎通が可能になる『通信』が主要な所ですかねぇ」
なるほど、と腕を組み顎に手を当てるようにして考える。
ミィを守るためなら守護、もしくは離れていても危機がわかる通信か。
だが、ヤチからの頼みがある手前いつまでもこの町やミィの傍に留まっている訳にはいかない。
……となればミィには守護だな。
キャロルは治癒魔法が扱えるが、魔法力強化で治癒力も上がるのだろうか?
「なぁご主人、治癒魔法も強化出来るのか?」
「えぇ、あれは水の魔力を利用して対象の再生能力を高めているので、装飾品で強化出来ますぜ」
ならば、キャロルへの贈り物には魔力強化で良いだろう。
最後は私か……。
無属性の魔力をどのように扱えば発現するのか、
通信は相手が居なくては意味がない、守護を用いて
「守護、魔法力、身体能力強化を一つずつ、計三つを頼みたい」
「毎度あり!」
注文を聞き、店主は帳場から算盤のようなものを取り出し計算を始める。
「装飾品は既存の物で? それとも新たに製造いたしましょうかね?」
「新しく作る場合、日数はどれくらい掛かる?」
明日の試験内容は聞いていない、可能な限りの準備はしておきたいから、是非とも身に着けて挑みたい。
「そうですねぇ、物にも拠りますが一つあたり一日見てもらえれば」
それでは一つだけ先に頼んだとしてもギリギリ間に合わないかもしれないな。
「置いてある物から選ばせて頂こうか」
「はいよ! 身体能力強化の種類は装飾品の着ける場所によって腕なら腕力、脚なら脚力、耳なら聴力、眼鏡型なら認識力といった感じで変わりますので注意してください。どれにするかかお決まりになられたらお呼びくだせぇ」
そこまで言うと店主は奥の作業場へと戻っていった。
腕力なども捨て難いが、しかし修練を積めばどうとでもなるものだ。わざわざ選ぶほど急ぎ力を欲している訳でもない。
眼か耳か……。
聴力は敵の位置、動き、人数などを判別する要因に成り得るが、多数相手でも一人ずつ戦えば些細な問題でしかない。それに殺気を察知できる今、更に聴力を上げる意味も無いだろう。
となれば眼を強化しようか。
店内を見て回り、ミィに進捗を聞いてみる。
「気に入ったものはあったかい?」
「う~ん、キャロルお姉ちゃんにはこの腕輪が良いかなぁ」
そう言い手に取ったのは、銀を素材に碧く輝く宝石があしらわれた物だった。
「どう、かな?」
簡素ではあるが、それ故に宝石がより美しく見え、着ける人を選ばないような工夫が施されていた。
「あぁ、良いと思うぞ」
キャロルのことだ、ミィが選んだものなら何でも喜んで受け取ってくれるはずだしな。
「次は私に似合う眼鏡を選んでくれないか?」
「お姉ちゃん、眼が悪いの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、な」
ミィは不思議そうに小首を傾げつつ、眼鏡が並ぶ場所へ移動し物色を再開した。
店主の数々の作品を眺めつつ、ミィに似合いそうなものを探していく。
と、そこで大通りへ向かう道中でのミィの言葉を思い出す。
『お姉ちゃんと、お揃いが良いなぁ』
そうだった、ミィは私たちと同じものが喜ばしいのだ。
では、答えは一つだな――
* * *
「ご主人、これで頼む」
「毎度! って、装飾品一つ増やしたのかい」
「あぁ、ちょっと事情があってな……」
ミィがキャロルにと選んでくれた腕輪、それと同じ型で宝石の色だけが違うものを二つ。最後にミィに選んでもらった片眼鏡の計四つを店主に渡す。
「この腕輪だけ付与魔法は無しで構わない」
「あいよ! では金二枚、銀八枚で! 作業が終わったらコレで呼びますんで!」
そう言って渡されたのは一つの指輪だった。
「私が付けてる者との通信魔法が付与されてます。お試しも兼ねてお持ち下さい」
「ありがとう、釣りは取っといてくれ」
金三枚を渡し、先に店先へ出ていたミィと合流する。
既に日は高く、人の増えた大通りは活気に溢れていた。
「ミィ、お腹空いてないか?」
「うん、少しだけ」
ぐぅ、と軽くお腹を鳴らしつつ返事をされる。
装飾品への魔法付与には少し時間が掛かるらしいので、先に腹ごしらえと武器探しを済ませておこう。
「それじゃ、行き先はもちろん?」
「キャロルお姉ちゃんのお店!」
* * *
「いらっしゃいま――あっ!」
綽膳へ入ると同時に、キャロルがこちらに気付き駆け寄ってくる。
「ムサシさん、ミィちゃんいらっしゃいませ! 席に座って待っててください!」
それだけ声を掛け終えるとパタパタと厨房へと引っ込んでいく。
「まだ注文する品を選んでないんだけどな……?」
「キャロルお姉ちゃんの料理なら何でもいい!」
ミィの言葉を聞き、確かにそれもそうだな、と二人で手近な席へと腰を落ち着けた。
昨日の出来事を知っている数人の女給さんや客から声を掛けられ、軽く挨拶を交わす。ミィが何の子とかわからずにいたので説明しながらキャロルを待っていると――
「お待たせしました~」
三人分の料理を運びながら、女給服から私服へ着替えたキャロルが現れた。
「ん? 今日はもう仕事終わりなのか?」
「いえ、夕方までありますけど、折角なので三人でお昼を食べたいなと思って休憩しに来ました」
料理の皿を机に並べ、ミィの隣に座りつつ言う。
「私たちまだ注文してないんだけども」
「ムサシさん、昨日だっておまかせだったじゃないですか。ミィちゃんは何でも喜んでくれると思うし、ムサシさんが昨日大金置いてったので、おすすめ料理を腕に
言われてみれば確かに。
昨日の料理も、今朝のご飯も美味しかった。
品書きを眺めたところでおすすめの物を頼んでいただろう。
「さ、いただきましょう」
「「いただきます」」
* * *
「この後は何をする予定ですか?」
三人で美味しい昼食を食べ終え、お腹を和ませているとキャロルから質問が飛んできた。
「明日の試験に向けての準備をな。非殺傷武器の調達と、先程注文した装飾品を受け取るくらいしか決まってはいないが」
「キャロルお姉ちゃんの分も選んだんだよ!」
秘密にして驚かせようかとも考えたが、ミィに言われてしまった。まぁ問題はないか。
「えっ、高かったんじゃ……」
「そうでもないさ。キャロルの治癒魔法が強化出来れば良いかなと思って、付与魔法も頼んできたから受け取れるまでに時間がかか、る……」
言葉の途中でキャロルの目から涙が零れ落ちてくる。
「な、何かまずかったか!?」
「いえ、嬉しくて……ありがとうございますっ」
「よしよし~」
ミィが横からキャロルの頭を撫で始める。
「でも、本当に高くなかったんですか?」
「多分」
「多分ってあなた……」
「三人分で金二枚と銀八――」
「お姉ちゃん!?」
言い切るより早く、キャロルが白目を剥いて気絶した。
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