7日目 最後の出勤日
彼曰く、今日で最後なんです。
***
「え~今日で最後なの?」
「そうなの~、ラストワークです」
いつものスタバ、ただし違う店舗にて。
着実に終わっていく仕事を脇に置いて、今日は代休をもらって一日カフェにこもろうと決めてきたわけですが。
ひたすらにパソコンに文字を打ち込む後ろで女性二人の声が聞こえてきました。
最後の出勤日、つまり明日からは来ないということ。
この言葉の示す意味は多様に解釈することができます。
バイトに飽きてしまったのか、違うバイトを始めることにしたのか、実はバイト禁止の高校生が先生にばれてしまったのか、大学からは別のところになるから引っ越しすることになったのか、それとも就職先が決まって大学卒業間近なのか。
カフェ店員一つとっても様々な人間模様があります。
スタバスタッフ、というステータスを獲得した優秀な人たちであれば、基本的には最後の理由が多い気もしますけど。
「え~寂しい~」
「と言いつつ、私がいなくても来るんでしょ?」
「そうだけど~、ハルがいたから通ってたっていうのもあるよ。友達いると来やすいし、会えると思うとうれしいもん」
「高校からは別だったもんね。まさかレジで迎えるとは思わなかったよ」
「それはこっちのセリフ!びっくりしたもん!まさかいるとは思ってなくて~」
中学の地元の同級生かな?昔馴染みと会う懐かしくなるのは、人同士の間が狭い東京も一緒なんだな、と思いながら見知らぬ人の人生を想う。
スタバにこもるようになっていいなと思うのは、こういう何気ない人間模様を感じることができるようになったことだ。
家に引きこもってばかりだった大学時代とは違って、なんとなく大人になってからの方が人間味を感じる人生を送れている気がする。学生のころから外に出る習慣を身に付けておけば・・・。
「学生のうちにいろいろ遊んどくといいよ」
懐かしくも、学生時代お世話になった焼肉屋の店長の言葉を思い出す。
出不精な私に対していろんなことを教えてくれました。
人と接するときの態度、言葉遣い、声のトーン、抑揚。
必要な時以外話すことのない私がちゃんと人と話すようになったのは、単身上京した以上必要不可欠だったのは当然ながら、必要に迫られずとも話すことが社会においてはどうやら大切だということを知ったからです。
それは仕事上のやり取りになる掛け声や接客に限らず。
お客や店員との雑談、今日の気分のような些細な感情を話すことも大事なこと。
「入ったばかりのころはちゃんと人と話せるのかな、なんて心配してたけど、もうすっかり必要な存在として長いこと務めてくれました。ここで一生懸命働いて、いろんなこと勉強してくれて、そして成長してくれて。長いこと働いてくれた人が卒業していくのは寂しいけど、それ以上にうれしいです」
最後の出勤日。店で出しているのと同じ肉を卓に並べて、焼肉の準備をしてくれた店長からの送る言葉。
「最初みたいにずっと不機嫌な顔をしてるより、ちゃんと話せる人だと思ってもらった方が、何かと得することが多い。信頼もしてもらえるよ、私はそれで仕事を続けることができたんだから」
会社に入って今もひしひしと感じていることを伝えてくれた。信頼を得ることは難しいけど、意識するようにしている。
「就職は東京?外?」
「研修の間は県外、でも戻ってくるよ。ちゃんと仕事続けられればね」
「ハルならできるよ~、いつもちゃんとしてたもん。信頼されてないと4年間も続けらんないでしょ」
「運がよかっただけだと思ってるけどね~・・・でもありがと、頑張るね」
「うん。また連絡するね、ご飯行こ~今度」
「わかった、絶対ね」
後ろからでもわかる笑顔の言葉。
信頼を勝ち取るために得た様々な経験が、彼女の人生をさらに豊かにすることを祈りつつ、今日の日記を書いていた。
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