15日目 雪化粧

彼曰く、雪で染まった街に広がる人の模様。


 ***


雪で真白に染まる世界。

銀世界。

初めて目にしたのは水泳教室のみんなで言ったスキー合宿。

水泳合宿ちゃうんかい。

どうせ水の中で寒い思いをするくらいなら、いっそ雪の中でとか上層部が思ったのかしら。

白銀の世界と聞いて、「どれだけキラキラ光っているの?」と思っていたけど、思っていたより白しかない。

これなら馬も白になりそうだけど、それほどキラキラはしてない。

全部吹雪で前が見えなかったせいだと思う。

たしか初日は雪がすごすぎて合宿中止になってた記憶がある。

よくわからん演し物をやらされた気がする。

白い雪の上を歩いても雪しか見えない、冬の王国みたいに思えた。


雪化粧を見てきれいだと思ったことは、東京では今のところ一度もない気がする。

雪は毎年多少なりとも降ってると思う、記憶に残ってないだけで記録は雪を示しているはず。

雪とは縁遠い東京都心の私が住む街では、”雪化粧”という単語が似合わない。

そんな中でも雪を感じられるとしたら、わずかに残った雪を踏みつけて音を楽しむくらいかな。


ザク、ショリ、ザザク、シュリッ。

ポロン。


冬の音に混じった通知音。

画面の中には家族LINEのアイコンが表示されている。

家族になって3年目になるフレンチブルドック2匹。

つぶらな瞳に真面目そうな表情がかわいらしい。

さてさてなんの事件かな?と思って開くと、写真が共有されている。

見ると真っ白な中に4つの小さな肉球の跡。

地元でも雪が降ったらしい。

東京よりも南にある実家でも、雪が積もることはあまりない。

今年に積もった雪もそれほど多くないようで、肉球の跡がくっきり黒く残っている。

アスファルトの黒だ。

周りが白いからか、普段見るアスファルトの黒よりもきれいに見える。


そうか、と思った。

白く染まることばかりが雪化粧だと思ったけれど、逆に雪に染まっていないことで化粧のようにワンポイントになっている。

黒には白が、白には黒が、色よく映える。

モノトーンの逆転勝利を感じながら、雪の中出るのが億劫な気持ちを押し殺して、銀世界に自分を残そうと家を飛び出した。

吹雪はない。

気持ちよく外に出れる。

朝陽を浴びてキラキラと輝く雪は、今までよりも心に残りそうだった。

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