9日目 チョコレート
彼曰く、甘い香りに誘われて。
***
会社の人とよく行くコンビニ。
今日のチェックは大変だったそうな。
素材の最終検査をする人がいるのだが、全うするべき仕事を半分くらいの力でしかやってくれなかったがために、素材ミスが大量に見つかったのだ。
完成映像にならないと素材の問題はわからない、ともいうけれど、じゃあ何のための検査ですか?という気持ちになる。
「他の仕事がだいぶ詰まっていて・・・チェックにも出席できそうにありません」
スケジュール最後の方はデータをメールで送ってチェックしてもらったものを次に流してばかり。
検査作業のスピード、正確さは個々人によるが、これらは基本的に反比例する。
100枚を1時間かけて見るよりも、100枚に5時間かけた方が素材抜けも粗も見つかるのは当然のこと。
そして今回の検査担当は、前者の仕事になりがちな人だったらしい。
「本当に検査された素材を使ってますか?」
チェックに参加したスタッフからはそんな声が上がる始末。
チェックの場ではあまりの粗の多さに笑いが起きたほどだ。
もちろん、呆れた、乾いた笑いだが。
「勘弁してほしいよ、ほんと」
「そりゃ災難だ~」
「何か無性に食べたい!」と連れてこられたコンビニで、同僚の愚痴を聞き流している私の視線の先にはガーナチョコレート。
バレンタイン仕様になったパッケージを見て、私の中にアラートが鳴った。
そういえば、あの子が誕生日だったな
入社後しばらくして、仲良くなった他部署の子。
以来よくご飯に行ったり、遊びに行ったりした、物静かで大人びた人だ。
バレンタインの話題で盛り上がったことがあって、誕生日が近いこともそこで知ったんだっけ。
「・・・」
他部署なこともあって、最近は外食に誘うのもままならない。
でも話しているときの雰囲気は好きだからつながりは保っておきたいなと考えていた。
せっかくだし、買っていこうかな
お菓子はすぐに食べきってしまうのでなるべく我慢するようにしている。
だからといってプレゼント代を渋るほどケチではない。
気分高まる会話をひそかに楽しめる異性の存在は、メンタルやられがちな会社ではありがたいものだった。
自分用と、それとプレゼント用とを陳列棚から取り上げる。
「あれ、チョコ買うの?珍しー」
「まあね、頭使うには糖分必要じゃん?」
「確かに。えー、俺も買おー」
「食いすぎ注意ね」
「これは後輩の分だからいーの!そっちこそ!」
「すぐ食べちゃうから、1個じゃ足んないんですー」
軽い調子で言い訳をしながら、渡す相手のことを考える。
さっき部屋の前を通ったときには席にいるのを見かけたからまだいるはず。
どんな顔するかなぁ
口角上がるのを感じながら、レジの前で膝を揺らした。
「楽しそうだね」
「運動不足だから」
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