21日目 夜間談議
彼曰く、冬の夜は長い。
***
急場をしのぐには、どうしても無理のある働き方になる。
朝起きて、眠い目をこすりながら出社して、時々怒声を飛ばしながら仕事をさばき、後輩の面倒を見ながらあとどれだけ仕事が残っているかを確認する。
残業時間に対する監視が厳しくなった昨今は、なるべく明日でもいい仕事は残させて、後輩を早めに帰す。
若くてエネルギッシュな子たちが少しだけ疲れながら帰っていく背中を見送りながら、自分に残った仕事を片付けていく。
気付けば終電の近い人たちが帰っていき、私も同様に帰ろうかなとも思ったのだけど・・・。
「これ、上がってきたから頼んでもよい?」
「ん?はいー、わかりました」
安請け合い、即実行。
これが私の悪いところ、なのかもしれない。
来た仕事をとりあえずすぐやってしまう。
仕事人としてはいいことかもしれないが、人間としては大丈夫なのかしら。
ちゃんと生活できているかを心配されてしまいそう。
まあ家では、とりあえず食べれて寝れればいいので、生活できていないわけではないと思う。
とはいえ仕事の量を考えていないのはよくない。
案の定、終電を逃しとりあえずどうしようかなーと考えていると。
「あれ、まだ帰ってなかったの?」
「お疲れ様、まあ歩いて帰れないわけじゃないし、週明けに持ち越すの嫌だったから別にいいかなって」
仲のいい同僚が戻ってきた。
「ずっと喋ってたの?」
「そー、捕まっちゃってさ。ひたすら他の仕事の愚痴聞いてた」
「あー、あれ大変だって言ってたもんなー。かなりエグってるの?」
「ぽいぽい。想像よりも忙しくなってきてるってさ」
「自分で忙しくしちゃってるだけでしょ、初めてのことが多いだろうから仕方ないと思うけども」
「でもああやって仕事で大変そうにしているのを見てると、私らも頑張らないといけないなーって思うよね。帰らないといけないんだけどさ」
「それなー」
そんなこんなで同僚の仕事をしている横で、雑談に付き合うことになった。
今の職場の状況、なかなか動いてくれない先輩への愚痴、結果的に先輩の仕事を取ってしまったことへの負い目からか何となく忍び足になっていること、納品が近くなって終電ギリギリまで残業してしまう子が出てしまっていること、今後の仕事について、それぞれの仕事へのスタンスの違いから見える自分たち自身の問題点と役割が違うことの利点・・・。
それぞれの忙しさの理由を探しながら、ばっと忙しくなる今後2カ月ほどをどう乗り切るか。
「心荒みそうだわー」
「でも上の私らが抜けたら確実に回らなくなると思う」
「それよ、マジで」
忙しくならない予想の出来ない直近の未来を憂いながら、それでもやらないといけない立場になってしまったんだなー、と感じて夜通し話していた。
気付けば始発の動いている時間、本来ならぐっすり寝ている時間に会社にいる違和感を懐かしく感じる。
コロナになってから終電を越えて会社に残ることは少なくなったから、テンションが上がってしまったのかもしれない。
約束に間に合うかを少しだけ心配しながら、朝陽を浴びる街中を歩いて帰った。
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