20日目 焼肉ランチ

彼曰く、肉を食らいたいときが、人生にはある。


 ***


焼肉は特別な日にこそ食べるもの。

小学生、中学生の時はもちろんのこと、高校生になっても焼肉を食べに行くことにはなにかと理由が欲しかったタイプ。

幼いかもしれないけれど、いいお肉を食べるのには何か代償を払わないといけない気になってしまう。

それはたぶん小さい頃の習慣になっていたからだと思う。


両親はそれなりに厳しい人だった。

お小遣いは頑張ったぶんだけしかもらえないから、テストやら家事やら部活の大会やら、そういうタイミングがあったら結構必死になってやっていた覚えがある。

頑張れば頑張るほどお金をもらえるし、美味しいものにありつける。

今の生活と似たようなものだけど、当時の私には社会に出てからのことなんて想像もできなかったし、焼肉はやっぱり特別なものだと思わなかった。

今思えばこの教育方針でよかったのかもしれない。

その反動か、大学時代に焼肉を食べまくって、身近なものになってしまったわけだけど。


背伸びして大人っぽい生活をしてしまった大学時代だったけれど、あのころ感じた焼肉の身近さはどこかに行ってしまった。

給料すべてを焼肉に注ぐほどに余裕があるわけでもなく、毎日焼肉を食べたいという気持ちも減ってしまった。

忙しいというのもあるけれど、間違いなくこの気持ちがあるからだと思う。

「焼肉は大事な時に食べてこそ美味しく感じるものだ」

大きな仕事が終わったとき、自分自身を元気づけたいとき。

そしてとにかく肉を腹に収めたいとき。

食欲の権化が腹に降臨した瞬間、私の中の焼肉欲は限界値を越える。


「焼肉行きたい・・・!」

特に忙しくもなかったけれど、同僚2人と一緒に焼肉を食べに行った。

理由は特にない。

「何食べる?」

「そうねぇ・・・、肉食いたくない?」

「あ、わかる。食べたい久しぶりに」

「だよね!あそこ行こうよ、駅から会社来る途中にある、長いことやってそうなとこ」

「いいね、行こ行こ!」

肉を焼きたい欲、というより、単純に肉を食いたい欲。

すべての欲の塊を詰めたような気持ちで、昼休みを迎えた私たちは焼肉屋へ進路を取った。


美味かった。以上!

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