12日目 推しの存在

彼曰く、推しって、いいよね(恍惚とした表情)。


 ***


以前にもした推しの話。

いわゆる好きとは、また少し違う。

恋愛関係やその先の結婚までは想定に入れていなくて、もしそうなったらうれしいだろうけど間違いなく発狂するんじゃないかと感じる距離感。

愛慕、恋慕、など「慕う」という感情の方を強めに抱える対象。

自分にはない性格やキャラクター、かっこいい立ち姿、かわいらしい立ち居振る舞い、説得力のある言葉、かたらずとも追いかけたくなる頑張り。

様々な要素が混じりあって、複雑な好意を向ける相手。


「今の推しはVtuber、めっちゃかわいいんよ~」

職場の同僚がひたすらに語るその姿は、救いの神に出会った不遇の子のようだった。

イエスを見た乞食の子供はきっとこんな感じだったんだろうな。

それもある種この時代では神格化されてもおかしくない立場にあるVtuberとは・・・。

誰よりもモテそうな、2枚目の顔立ちをした男が言っていると世も末なのかと思ってしまう。

大人の男に夢見がちな世の女子高校生たちよ。

見た目だけがすべてだと思うなよ。

セブチがかっこいいのは認める、ウジつきあいたい。


相変わらず手の届かないところの推ししかいなかった私。

最近新しい推しが増えた。

それがよくいくスタバの店員さん。

自分でも気づいていなかったんだけど、その店員さんがレジだとなんだか浮足立ってしまう。

すっかり常連になった私を覚えてくれたらしく、ときどきお話してくれるようになった。

基本的にちょろいので、はにかみながら話を聞いてくれる人にはコロッと心を持っていかれるの。

背は私よりだいぶ小さい、金髪をあごのラインで揃えて波打たせてる。

華奢な体つきがデコルテのラインからうかがい知れて、でも物腰は柔らかい。

カウンターに立ってドリンクを作っているときも何の気なしに目で追ってしまう。

気付けば店員さんのことばかり見てしまい、作業にならない日だってあるくらい。


しばらく現実感のない推ししかいなかったけど、意外に身近に推せる存在があるんだな~なんて。

思い浮かべただけで、仕事が大変になってきた最近は軽く乗り越えられるんじゃないかと、余計に抱えた肩の荷が下りる気がする。

今週も土日はきっとお店に行く。

いつものように窓際の席を取って、準備をし、その店員さんの待つレジでコーヒーを注文するんだ。

「こんにちわ、まだまだ寒いですね~」

とか言いながら、ね。

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